アリソン:世界的な成長に対するあなたの悲観的見通しの理由はどこにあるのか?

ダリオ:4つの要素に焦点を当てている。

 まず、われわれは、短期的な債務サイクルの中にある、それはまたビジネスサイクルとも呼ばれる。過去にはこのように債務と支出が大きく膨らんだことはなかった。バランスシートから見れば、そんなことは不可能だと。したがって、減速が見られるだろう。同時に、年金および医療保険の債務はますます期限が近づいている、それは債務が期限を迎えるのと同じように債務と支出を圧迫する。

 第二に、私たちはまた、長期債務サイクルの後半にある。これは、以前に議論したボトルに残った中央銀行の刺激策が不足していることである。

 3番目の要因は、選挙年における政治の二極化であり、これは主に社会主義と資本主義の衝突である。この衝突は伝統的に今日起きている相当な富、収入、機会の格差によるもので、それらはいずれも、資本市場と資本家にとっては良くない政治における大きな変化につながった。例えば、法人税率を引き下げて他の税金を引き上げたことや、あるいは、それはこうした変化につながらないかもしれないが、どちらのケースにおいても、次の景気後退期には裕福な資本家と貧しい社会主義者との衝突は醜いものになるだろう。

 第4の要因は地政学的リスクの増大である。特に中国が引き続き浮上し、多くの分野で米国のリーダーシップに挑戦している。この期間は、1930年代後半に最も類似しており、その時、米国も短期および長期の債務サイクルの終わりにあったため、金融政策には限りがあり、富の差は同様に広く、ポピュリズムが膨張し、英国と米国が世界に対して持っていた力はドイツと日本の新興勢力に挑戦されていた。これらの各要因―借用書が期日を迎えることによってもたらされる下落圧力、刺激する力のない中央銀行、大きな富と政治的な格差、強力な新興世界大国による世界の大国の挑戦、が困難な結果をもたらす。

アリソン:これはマーケットにとって何を意味するのか?

ダリオ:この要因が合わさることによって、今後数年間、危険な環境を作り出すだろう。マーケットと経済に上昇をもたらした多くの影響が衰退または反転するため、これは特に当てはまる。たとえば、株価の上昇によりリターンスプレッドが低下したので、企業は自社株買いや、合併・買収を追い求めた。市場は以前ほど良くはない。

 法人税の引き下げはバリュエーションを押し上げたが、そうした手法はもうない、むしろ反転する可能性が十分にある。過去20年間にわたり、売上に対する利益率の割合は約7%から約15%へ上昇し、それによって富は労働者ではなく資本市場や資本家へとシフトしてきたが、こんなことは続くはずがない。そして、議論したように、金融政策は景気刺激策の力を失うだろう。こうしたことは全て、公的年金基金や医療債務の実質的な積立不足が支払期日になると現実のものとなるだろう。これは、より高い税金や財政赤字のマネタイゼーションでしか解消しない。将来的には、市場を支えてきた多くの要因はもはや存在しなくなり、より大きなリスクのある環境を見ることになるだろう。

アリソン:こうしたリスクが、今後数年間で、米国またはおそらく世界的な景気後退に達すると思うか? そして、その不況はどの程度深刻になるのか?

ダリオ:短期的には何かしらの不況ではなく、成長の鈍化が起こるだろう。次の不況がいつ起こるかを言うのは難しい。次の1年、2年、3年のいずれかに起こるかわからない。ほとんどの方策では、この拡大局面は古く、現在世界的な弱体化が進んでいると言える。しかし、景気後退が来たとき、それがこれらの内部および外部のあつれきを悪化させることには全く疑う余地がない。良いときに今、困難に見えるなら、悪いときにどのように見えるかを想像してみよう。とはいえ、次の景気後退は2008年の金融危機ほど深刻になるとは思和ない。期日が到来する債務を計算し、古典的な債務危機に向かっていると判断することで、この危機を予測した。次回は、景気後退は政治的に困難な環境における大きな圧迫のようであり、1930年代後半に見られたものとはるかに似ていると思う。しかし、それ自体が非常に危険であるため、政治的リスク、通貨の切り下げなどの影響を受けやすくなっている。

アリソン:では今、リスクを軽減し始める時なのか? 今日、投資家はどのようなポジショニングをとるべきか?

ダリオ:問題は、実際にどのようにリスクを減らすかということか?人々は現金ポジションをつみあげることがリスクを減らすと考えているようだ。しかし、それは標準偏差の観点からの場合のみだ。インフレ率/名目GDP成長率を下回るような金利が無視できる場合、さらにその上で税金を支払うと、リターンは得られない。長期的にキャッシュを持つことは、最もパフォーマンスの低い資産クラスであり、したがって最もリスクの高い資産クラスだ。ではどこに行くのか?私にとって、どれか一つの資産に偏るとリスクが高まる。したがって、この先やってくると想定している困難な環境に対処する最善の方法は多様化することである。今日、投資家のほとんどがレバレッジをかけてロングしている。つまり、企業の自社株買いやプライベートエクイティなどを通じて、彼らはリスクのある資産を所有しており、そうした資産にレバレッジをかけている。これに対して多様化するためには、例えば、レバレッジをかけたロングのポートフォリオエクスポージャーを減らす。投資家は、本質的に多様性を持つ富にも目を向けるべきだろう。たとえば、ゴールド中国の資産は、ポートフォリオの構築の観点から望ましいとされるものに比べてポートフォリオで過小評価されている2つの資産であり、したがって、有効な多様化要因になる可能性があると思う。ゴールドは風変わりな投資のように聞こえると思う。しかし、ゴールドは代替通貨である。あなたのポートフォリオが、私が説明している不利な環境―効力のない金融政策、より大きな財政赤字とそれらをマネタイズする必要性、チャレンジングな政治―でパフォーマンスが低下する可能性が高い場合、現金の代替品としてのゴールドの役割にはいくつか多様なメリットがある。

 また、ほとんどの投資家は中国の株式市場と債券市場で明らかに過小評価されており、これらの資産の価格は通常より低くいまま放置されている。このような投資は、地政学的な緊張を考えると、現時点では議論の余地がある。しかし、そうしたことを超えても、投資家は一般的に、これまで足を踏み入れたことのないマーケットでのエクスポージャーを積み増すことに不快感を抱いており、cap(金利のオプションの一種類)偏重アプローチに重きをおきがちである。私の経験では、それは間違いだった。私は、投資家がついに足を踏み入れた後、新しい市場に慣れることを繰り返し見てきた。年金基金が債券から株式に投資するのは危険すぎると考えたときのことも覚えている。投資家は今日、中国に対して同様の躊躇を示していると思う。

 私はそうしたことは変わると思う。中国の市場は現在大きくなっている。彼らの株式と債券の時価総額は米国に次ぐものである。急速に成長しており、ベンチマークとなるインデックスのサイズも拡大しており、そのため、海外からの投資が増えるだろう。私はむしろ、これらの流れの背後にいるよりも、これらの流れに先んじたい。そして、多様化の観点から、競争相手が米国市場のシェアを侵食する可能性がある場合、それは中国になるだろう。もし投資家が遠い将来から今この瞬間を振り返ると、21世紀初頭には中国に対するエクスポージャーを持っていなかったことに気づくだろう。中国はすでに2番目に大きな経済であり、中国とその市場は 急速に成長している。後悔することになるだろう。最も重要なことは、すでにポートフォリオにあるさまざまな市場へのエクスポージャーのサイズのバランスをとることが、期待収益率を低下させることなく、より良い多様化をもたらす最も強力な方法である。私の意見では、これらの方法でリスクのバランスを取ることは、投資家が現在の環境でできる最も重要なことである。

 市場は常にマイオピック(近視眼的)で、目先の売買しか考えていないが、金融危機は近いうちにやってくる。レイ・ダリオが指摘しているのは、今の市場は「金融緩和する余地がなくなったときに起き得る市況悪化のリスクに十分な注意が払われていない。」ということであろう。