気になる夏場のアノマリー:夏枯れ
今日は、日本株の夏場のアノマリー【注】について書きます。
【注】アノマリー
経験的に観測される株式市場の「規則性」。理由がはっきりしないものの繰り返し起こるパターン。
株式市場には、いろいろな言い伝え、アノマリーや格言があります。その一つに、「夏枯れ」があります。夏場に株式市場の上値が重くなる、下がりやすくなる、というアノマリーです。なぜ、そうなるのでしょうか? 理由を考える前に、まず、事実かどうか、過去のデータを検証しましょう。
以下は、過去30年の、日経平均株価の月別の平均騰落率を表しています。
日経平均の月別、平均騰落率:1994年1月~2024年5月までの平均
ご覧いただくと分かる通り、過去30年のデータで見ると、7~10月は平均リターンがマイナスです。
これはただの偶然でしょうか? あるいは、何か理由があることなのでしょうか?
ただの偶然ならば、今後も繰り返すとはいえませんが、何か理由があれば繰り返す可能性もあります。
私は、理由があると思います。一番大きい理由は、米国株に「夏枯れ」の季節性があることです。米国株の影響を受けて、日本株もそうなることが多いといえます。
米国株の季節性
米国株に有名な相場格言があります。日本で「セル・イン・メイ(5月に売れ)」として知られる格言です。まずは、米国株を代表するS&P500種指数の過去30年の月別騰落率を見てください。
S&P500株価指数の月別、平均騰落率:1994年1月~2024年5月までの平均
米国株は、長期的に大きく上昇していますが、それでも、8月・9月はマイナスとなることが多いことが分かります。「夏枯れ」と言ってもよいのですが、そうは言わず、米国の相場格言「セル・イン・メイ」は以下の内容となっています。
Sell in May and go away and take vacation. But remember to come back in September.
日本語にすると、以下の通り。5月に売って(株式市場から)立ち去ってバケーションを取れ。でも、9月に戻ってくるのを忘れるなよ。
ユーモアあふれる表現ですが、要するに「5月に売って、9月に買い戻せ」という格言です。米国株に「夏枯れ」パターンが多かったことを見ると、この格言は有用だったと分かります。
それでは、これは単なる偶然でしょうか? 何か理由があって、こうなるのでしょうか? 私は、はっきり理由があると思います。
米国経済には、はっきりとした季節性があります。米国株は、毎年繰り返す米国経済の季節性を反映する結果、「セル・イン・メイ」のパターンを繰り返すことが多いと考えています。
米国経済が一番盛り上がるのは、クリスマス商戦のある10~12月です。クリスマス商戦明けの、寒い1~3月は経済活動が停滞する閑散期となります。4~6月から経済活動が少しずつ回復し、7~9月にかけてクリスマス商戦向けに販売用の在庫を積み増し、10~12月が1年間の最盛期となります。
このため、10~12月の米国株は大きく上昇しやすくなります。その反動で、1~3月の米国株はやや低調となります。4~6月は、次の10~12月に向けて経済が盛り上がる期待で、株価が上昇します。ところが、4~6月に先取りして上昇した分、7~9月は安くなります。
そして、最後の10~12月に一年の締めくくりで、株価が大きく上昇します。これが、米国株のアノマリーにつながっていると思います。
もちろん、コロナショックやリーマンショックなど激変がある年は、この季節性が働きません。季節性通りに動くのは、特別な出来事のない年です。
米国のGDP(国内総生産)統計は、季節調整をして計算されています。従って、先ほど述べた季節性は、季節調整後のGDPの四半期別成長率に現れません。それでも、人々は肌感覚で、10~12月の盛り上がり、1~3月の停滞を感じます。それが、米国株のトレードに現れやすいと、私は考えています。
2024年はどうか?
よく繰り返すアノマリーでも、毎年、必ず繰り返すわけではありません。今年も「夏枯れ」があるかないか、それは分かりません。ただ、例年の季節性と、少し似たことが起こっているという感覚はあります。つまり、米国株は、先行きの期待をかなり先取りして上昇していると思います。
もし、今夏の米国株に「夏枯れ」があり、10~12月にかけて再び上昇するとしたら、日本株も同じパターンになる可能性があります。
以上、今日は、ファンダメンタルズの話は抜きで、アノマリーの話をしました。私は、長期的に日本株に強気なスタンスですが、短期的には警戒した方がよいと思っています。
ただし、短期的な相場は誰にも分かりません。アノマリーとファンダメンタルズ、両方見ながら、慎重に考えていく必要があります。
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