信用取引の税金を軽くおさらい

 今やすっかりハードルが下がった感のある信用取引。しかし無理してレバレッジをかけすぎたり、損切りが遅れたりすると「追証」(証拠金の追加差し入れ)や強制決済で致命的な大損失を被ってしまいます。絶対に損切りルールを守る、一つの銘柄に資金を集中させすぎない、などの正しいやり方で行うことがとても重要です。

 そして信用取引を行うにあたっては、税金の取り扱いも理解しておく必要があります。

 信用取引で買い建てた株を売り決済したり、信用売りで売り建てた株を買い決済して利益が出た場合は譲渡所得のプラスとして計算されます。

 逆に損失が生じた場合は譲渡所得のマイナスとして計算し、現物取引と合わせて1年間のトータルでプラスであれば譲渡所得として税額が発生します。トータルがマイナスであれば税額はゼロですが、確定申告して損失を繰り越すことにより翌年以降3年間の利益と相殺することができます。

 これらについては現物取引と信用取引とで違いはありません。

 なお、信用取引独自の仕組みである「現引き」や「現渡し」の場合は多少扱いが異なりますので、過去に書いた下記の記事を参考にしてください。

 税金はかかる?かからない?信用取引の決済方法による税金の違い

信用取引で配当金はもらえないが「配当金のようなもの」をもらえる?

 ところで素朴な疑問として、信用取引で買った株につき配当金はもらえるのでしょうか?

 信用取引は、株そのものを持っているわけではないため、例えば現物の株を持っているときのような、株主総会の議決権はありません。

 そして株主ではないので、株主優待を受け取ることもできません。

 では、株主でないのなら、配当金も受け取ることはできないのでしょうか? 答えは「イエス」ですが、現実には「ノー」です。

 実は信用取引で買い建てている株につき配当金が支払われると、配当金そのものはもらえないのですが、「配当金のようなもの」がもらえます。これを「配当金相当額」とか「配当落調整金」などと言ったりします。

「配当金相当額」は配当金ではなく株の売却損益の一部

 この「配当金相当額」は、その名の通り配当金ではなく、配当金のようなものです。そのため、配当金とは税金の取り扱いも異なります。

 配当金は「配当所得」として課税されますが、配当金相当額は「譲渡所得」、つまり株の売却損益の一部として取り扱われているのです。

 なお、配当金相当額として受け取れる金額は、配当金の額から、国税相当額である15.315%の税率を差し引いた額、つまり「配当金×84.685%」となっています。

 源泉徴収ありの特定口座の場合で、配当金相当額に対し税金が天引きされる場合は、この「配当金×84.685%」にさらに20.315%を乗じて税額が計算されます。

 また、信用売り(空売り)の場合は、この配当金相当額を支払うことになっています。

 配当金ではないので、会社から配当金の通知書も来ませんし、受け取り方を選ぶこともできません。株の売却益と同様、証券会社の口座への入出金となります。

 信用買いの場合、配当金のようなものはもらえるが配当金より金額は小さく、かつ配当所得ではなく譲渡所得になる、という点は押さえておきましょう。

微々たるものだが、効果があるかもしれない「両建て」

 なお、信用取引を活用したテクニックとして、「現物で保有している株をそのまま保有しつつ、同じ株を信用売り(空売り)する」というものがあります。

 これは、特に現物株に含み益が生じているものの、株価のチャート形状やトレンド的にいったんは売っておいた方がよい、と判断される場合に有効です。

 含み益のある現物株を売却すると、源泉徴収ありの特定口座であれば即座に税金が天引きされ、手残りが減少してしまいます。

 でも、現物株を売却せず保有しつつ、同じ株につき空売りを行えば(これを「両建て」といいます)、現物株は持ち続けているので含み益に課税されることがありません。

 実は、非常に微々たる効果なので無視してもよいのですが、効果があるかもしれないという点でお伝えしておきます。

 現物株の保有と空売りとで同じ株を両建てしている状況で配当金を受け取った場合、例えばそれが合計で3万円とすると、次のようになります(配当金は源泉徴収前の金額)。

  • 現物株:3万円の受け取り
  • 空売り:3万円×84.685%=2万5,405円の支払い

 となり、現物株を全て売ってしまった場合と比べて、両建てすることで差額4,595円だけ多く受け取ることができます。

 その一方で、空売りのためのコスト(貸株料など)がかかりますから、この差額のみでそのコストを賄えるかどうかは微妙ですが、現物買いと空売りの両建てにすることにより、全部売却してしまうより少しだけプラスの効果があるのは事実です。