信用取引独自の税金の取り扱いを知っておこう

 読者の皆さんの中には、信用取引を活用している方も多いと思います。筆者も信用取引を長年活用しておりますが、現物取引ではできないこと、例えば空売りだったりつなぎ売りだったり、実質的な課税の繰り延べに使うことができるのは有利です。また、筆者は行いませんが、信用取引(空売り)を用いて、価格変動のリスクを抑えつつ株主優待の権利を得ることもできます。

 この信用取引、税金の取り扱いは現物取引とおおむね同じなのですが、信用取引特有の取り扱いもあったりするので、その点は押さえておきましょう。

 信用取引の決済方法には、「決済」、「現引き」、「現渡し」があります。それぞれにつき、税金の取り扱いが異なります。

通常の決済による税金は現物取引と同じ

 信用取引には制度信用取引と一般信用取引がありますが、制度信用取引の場合、建玉の決済は6カ月以内に行う必要があります。

 例えば1株1,000円で1,000株信用買いを行い、3カ月後に株価が1,200円になったところで決済すれば、(1,200円-1,000円)×1,000株=20万円が利益となり、これが課税対象となります。税率は20.315%です。

 空売り(信用売り)の場合も同様で、1株1,000円で1,000株空売りし、2カ月後に株価が900円に下がったところで決済すると、(1,000円-900円)×1,000株=10万円の利益となり、この20.315%が税金となります。

 源泉徴収ありの特定口座の場合は、決済の都度税金が徴収されますが、それまでの間に損失が累積している場合はそれを差し引いた残額につき税金が徴収されることになります。残額がマイナスのままであれば税金は徴収されません。

 源泉徴収なしの特定口座や一般口座の場合は、決済の都度税金が徴収されるのではなく、1年間の利益と損失を通算し、確定申告により精算することになります。

現引きの場合はどうなるの?

 信用取引の決済方法の一つに「現引き」があります。

 制度信用取引の場合、建玉は6カ月の期日到来後、強制的に決済されてしまいますが、決済を回避したいというケースも出てきます。

 例えば信用買いの建玉に多額の含み益が出ていて、決済されると含み益に課税がされてしまうという場合です。

 このとき、現引きという決済方法を使うと、信用取引で買った株を現物取引で買った形に置き換えることができます。

 この現引きは、信用取引の建玉を現物取引での保有株に変えるだけで、実際に株を売却するわけではないので、税金はかかりません。

 税金がかかるのは、現引きした後の現物株を売却したときになります。

 なお、現引きの仕組みが使えるのは信用買いのみです。空売り(信用売り)には現引きは適用されません。

そもそも「現渡し」ってどんなもの?

 信用取引で通常の決済や現引きはなじみがあるものの、「現渡し」はよくわからない、そもそも使ったことがない、という方が多いのではないでしょうか。

 現渡しは、空売り(信用売り)の場合にのみ用いることができる決済方法です。そして、現渡しができる条件が、「空売りした銘柄と同じ株を現物で保有していること」です。

 そもそも純粋な空売りであれば、空売りした銘柄と同じ株を現物で保有していることはないはずです。

 ですから現渡しができるケースはかなり限られていて、典型例は「保有している現物株の値下がりのヘッジのための空売り」です。

 例えば株価500円で1,000株を現物保有している株があるとします。現在の株価は1,000円で、この株を売るつもりはありませんが、この後一時的に株価が下がりそうなので、値下がりをヘッジするために、現物の1,000株を保有したまま、1,000株を1,000円で空売りする、というようなケースです。

「現渡し」の場合の税金の取り扱いは?

 現渡しをした場合、もともと空売りをしたときの株価で現物株を売却したという扱いになります。これだけの説明だと分かりにくいと思いますので、上で挙げた例を参考に説明します。

 もともと500円で1,000株買った現物株を保有しています。株価が1,000円のとき、この現物株は保有したまま、1,000株を空売りしました。

 その後この株の株価が400円まで下がってしまいました。そもそも500円で買った株の一時的な値下がりのヘッジのつもりで空売りをしたものの、当初買った株価より下がってしまったのならこの株を持ち続ける意味もないので、空売りを現渡しで決済することにしました。

 空売りを現渡しで決済する場合、「現物株を、空売りしたときの株価で売却する」という扱いになります。したがって、売却価格は1,000円です。

 また、この現渡しの株の取得価格は500円ですから、売却益は(1,000円-500円)×1,000株=50万円となり、この20.315%が税金となります。

 なぜ1,000円で空売りした株を400円で決済したのに1株当たりの利益が1,000円-400円=600円ではなく、1,000円-500円=500円になるのでしょうか? それは、現渡しを「現物株の売却」と「空売りの決済」に分解してみれば分かります。

 まず現物株の売却は、500円で買った株を400円で売りましたのでマイナス100円です。そして空売りの返済(買戻し)は、1,000円で空売りした株を400円で買戻しましたのでプラス600円です。

 この両者を合わせると、マイナス100円+600円=プラス500円となるのです。

 今回は、通常の決済、現引き、現渡しそれぞれの決済方法によって税金の取り扱いが異なることをお伝えしました。株式投資の税金の取り扱いはややこしいものですが、知らないと損をしてしまうこともありますので、基礎的なところからしっかり押さえておくことをお勧めします。