金利上昇、ドル高が落ち着いてきた?

 先週発表された米国の10月分のCPI(消費者物価指数)(13日)、PPI(14日)は強い数字が出ました。米10月CPIは、前年+2.6%(9月+2.4%)と鈍化ペースが落ちてきた感じです。10月分のPPIに至っては前年+2.4%と、9月+1.9%から加速しました。

 これらの指標を受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)の今後の利下げペースにブレーキがかかるのではないかとの見方が広がっています。しかし、14日、パウエルFRB議長が「利下げを急ぐ必要性はない」との認識を示すと、12月の会合で利下げ観測が後退し、約4カ月ぶりの高値となる1ドル=156円台半ばへと円安が進みました。

 その後は、週末を控えてポジション調整や利食いも見られ1ドル=153円台に下落しました。先週は米株も下落し、米10年債利回り4.5%水準では、債券買い意欲の高まりも見られ、金利は低下しドル安の背景となっています。

 一連の動きを見ていると、トランプ・トレード(金利上昇、ドル高)が一巡したような動きが見られています。海外ファンドの11月決算による利食いも見られたようです。

日銀の利上げのゆくえ

 また、今週18日の日本銀行植田和男総裁の名古屋の講演も円安を後押ししたようです。植田総裁は「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げていくことになる」と述べ、12月以降の会合で追加利上げを検討する姿勢を改めて示しました。

 しかし、利上げ時期については「毎回の決定会合で経済・物価の現状評価や見通しをアップデートしながら、政策判断を行っていく」との説明にとどめました。12月の利上げについては、タカ派的な内容になるのではないかとの期待がありましたが、警戒されていたほどタカ派ではなかったことから1ドル=155円台への円安となりました。

 しかし、円安の勢いは限定的で再び154円台に押し戻されています。21日にも講演が予定されているため注目したいと思います。

 8年前のトランプ・ラリーは、11月中に1ドル=約13円の円安となりましたが、1年2カ月後には選挙時の円高水準に戻りました。また、8年前のトランプ・ラリーの最円安水準は、大統領選の翌月12月の118円66銭近辺でしたが、第1次トランプ政権(2017年1月~2021年1月)の期間中にこの水準を抜けることはありませんでした。

 8年前は、予想外のトランプ氏勝利で政策期待が一気に膨らみ、11月、12月とドル高・円安にいきましたが、結局、予想外の勝利と最初の期待で動いただけだったということになります。

 今回も、トランプ氏の政策期待が高まり、トランプ・トレード(金利高、ドル高)の動きが見られましたが、トランプ氏優勢の段階から、トランプ・トレードが見られたため、選挙が終わるとトレードは一巡し、利食いが見られたようです。

トランプラリー後の見通し 焦点は日米の金融政策

 今後は、トランプ氏が来年1月に大統領に就任し、実際に政策が実行されるまではトランプ要因は後退し、日米の金融政策に焦点が移りそうです。

 米国大統領選挙が始まる前は、FRBの利下げペースと日銀の追加利上げが注目材料でした。FRBは、10月はFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されないため11月と12月のFOMCで1回もしくは2回の利下げがあるとの見方を示しました。

 一方、日銀は10月は見送りで11月が開催されないため、12月に利上げとの見方が大勢でした。いずれにしろ、FRBの利下げ、日銀の利上げによって日米金利差が縮小するため、ドル安、円高に動くという見方が主流でした。

 ところが、トランプ・トレードが活発だった10月、11月に発表された米国経済指標が良かったことから、日米とも金融姿勢に少し変化がありました。パウエル議長は「利下げを急がない」との認識を示した一方、日銀は12月の利上げはデータ次第として、12月利上げについてタカ派的な姿勢を示しませんでした。

 この結果、日米金利差縮小ペースは鈍くなるとの見方から、トランプ・トレードが一巡した後でも、ドル/円は底堅い動きとなっています。

 米大統領就任は来年1月20日です。そしてそれまでにFOMCと日銀会合が12月に開催され、就任式の直後にFOMC、日銀とも1月開催があります。

  • 2024年 12月17~18日 FOMC
  • 2024年 12月18~19日 日銀金融政策決定会合
  • 2025年 1月20日 米国大統領就任式
  • 2025年 1月23~24日 日銀金融政策決定会合
  • 2025年 1月28~29日 FOMC

 CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチによると、12月のFOMCの利下げ確率は60%と、1カ月前の78%から後退していますが、FOMCまでの雇用統計や物価、経済指標によって再び期待が高まることも予想されます。

 15日に発表された10月小売売上高は、前月比+0.4%と予想を上回り、9月分も上方修正されたことから消費の強さが確認されました。しかし、年末商戦の悲観的な材料が相次いでいます。18日、ブルームバーグ・インテリジェンスは28日の感謝祭からクリスマスまでの年末商戦期間中の売上高は2018年以来の低い伸びになるとの予測を示しました。

 NRF(全米小売業協会)の予想でも、前年比+2.5~3.5%と前年の伸びを下回る予想となっています。また、5番街にある高級百貨店サックス・フィフス・アベニューが名物の店舗イルミネーションの中止を発表しました。10月には開催予告をしていたにもかかわらず、足元の消費環境では費用に見合った集客効果がないと判断したようです。

 ハッサクもNY勤務時には毎年、その華やかさを見に行ってましたが、なくなればニューヨーカーも寂しく感じることでしょう。感謝祭以降の米国の消費が実際にどのようになるのか注目です。予想のように振るわなければ、12月利下げ期待が高まり、ドルの重しの要因になります。

 トランプ氏の大統領就任までにもう一点注意して見ておく材料があります。ウクライナ情勢です。ロシアとウクライナを巡る地政学リスクが高まり、円買い要因となっています。

 バイデン大統領は、トランプ氏が就任後24時間以内にウクライナ紛争を終わらせると主張していることから、ロシアとの停戦協議を有利に進めるため、米国製の長距離兵器の使用を容認しました。1万人以上の北朝鮮兵がロシア軍に参加し、ウクライナとの交戦に本格的に加わったことも背景にあるようです。

 19日、この米国の長距離ミサイル(ATACMS)使用容認を受けて、プーチン大統領が核ドクトリンの改定を承認し、核兵器の使用基準を緩和した、との報道で1ドル=153円台前半まで円が急騰しました。

 改定後の「核ドクトリン」では、核攻撃に踏み切る軍事的脅威の条件を拡大し、ウクライナを軍事支援する欧米も対象になることを示唆しているため、地政学リスクが一気に高まりました。しかし、ラブロフ外相が「核戦争が起きないというのがロシアの立場だ」と発言したことで154円台後半に反発しました。

 取りあえず、ロシアの核使用への警戒心は後退しましたが、一連の報道の後もウクライナからロシアへの長距離ミサイルによる攻撃の可能性はあります。今後もロシアは西側諸国へ圧力をかけるため核使用をちらつかせることは予想されます。ウクライナ情勢の緊迫化は続くことが予想されます。

 トランプ氏の就任までに政治的な動きが米国だけでなく、さまざまな国の動きがあるかもしれないため注意が必要です。