今週は米国の大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ氏が圧勝したことを好感した「トランプ・ラリー」が一服したこともあり、それ以前の上昇相場の主役だったAI(人工知能)関連株に注目が集まりそうです。

 日本時間21日(木)早朝にはAI株の主役である米国高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)が2024年8-10月期決算を発表。

 同社の今期2024年11月-2025年1月の売上高見通しが市場予想をクリアできない場合、半導体株を中心に全体相場が大きく崩れる恐れもあります。

 ただ、同社は11月から次世代AI半導体「ブラックウェル」の大量出荷を開始しており、顧客の間で感情的な奪い合いが起こっていると同社CEOのジェンスン・フアン氏が語るほど。

 マイクロソフト(MSFT)など米国巨大IT企業の旺盛なデータセンター向け設備投資がいまだ高水準なこともあり、エヌビディアが再び市場予想を超える驚異的な業績見通しを発表する可能性も十分に考えられます。

 先週の株式市場は、米国大統領選で圧勝したトランプ氏が次期政権人事を発表し、右往左往する展開でした。

 トランプ氏は中国に対して超強硬な姿勢をとるマルコ・ルビオ上院議員を国務長官に、反ワクチン派のロバート・ケネディ・ジュニア氏を厚生長官に指名。

 これを受けて日本では中国関連株、米国では医薬品株が下落するなど、トランプ次期大統領の過激な政策が引き起こす負の側面がクローズアップされ始めました。

 日本にとっては中国が最大の貿易相手国であることから、先週の日経平均株価(225種)は857円(2.2%)安の3万8,642円まで下落。

 機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数も2.08%安となり、米国大統領選のトランプ氏圧勝を受けて4.66%も急騰した先々週のトランプ・ラリーから4割超の下落となりました。

 14日(木)には米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が講演会で米国経済は「目覚ましく良好」で利下げを急ぐ必要はないと発言。

 実際、13日(水)発表の10月CPI(消費者物価指数)は予想と一致したものの、前年同月比2.6%上昇と前月から伸びが加速しました。

 また15日(金)発表の10月小売売上高は商品値上げの影響もあって前月比0.4%増と予想を上回る伸びとなり、物価高再燃の兆しも見えてきました。

 これを受けて米国の長期金利の指標となる10年国債の利回りは先週の4.3%台から4.44%までじわりと上昇。

 米国の金利上昇で15日(金)の為替市場では一時1ドル=156円70銭台まで円安が進みました。

 しかし、トランプ・ラリーの小休止を受けてドル買いの勢いが収まり、15日のニューヨーク市場終値は1ドル=154円30銭台まで円高方向に戻しています。

 週明け18日(月)の日経平均終値は先週からさらに下落し、前週末比422円安の3万8,220円でした。

先週:銀行株上昇!いまや中国・台湾関連株になった半導体株はトランプ過激発言もあり下落!

 先週の日本株は、米国の金利上昇で収益増に期待が持てる銀行株が好決算発表もあって引き続き上昇し、週間の業種別上昇率1位になりました。

 14日(木)に2025年3月期の通期業績の上方修正と増配、上限1,000億円の自社株買いを発表したみずほフィナンシャルグループ(8411)は前週末比9.9%も上昇。

 米国でも金融ETF(上場投資信託)に過去最大の資金が流入するなど、トランプ氏が掲げる規制緩和の恩恵を受けやすい銀行株が絶好調。最大手のJPモルガン・チェース(JPM)は3.52%高と続伸しました。

 13日(水)に創業家などによるMBO(経営陣による買収・非上場化)の報道が流れたコンビニ最大手のセブン&アイ・ホールディングス(3382)は10.2%上昇しました。

 一方、13日(水)に5,000億円超の公募増資を発表した関西電力(9503)が前週末比21.1%も急落。

 日本国内の金利上昇もあって設備の建設・維持に多額の資金調達が必要な電力・ガス業は、業種別騰落率の最下位近くに沈みました。

 トランプ氏が対中強硬派を政権幹部に登用したことで、中国向け売上比率の高い産業用ロボットの安川電機(6506)が7.3%安、ファナック(6954)が3.7%安。

 14日(木)に中国事業の不振で2024年7-9月期の営業利益が市場予想を下回る決算を発表した日本ペイントホールディングス(4612)は週間で8.8%下落しました。

 9日(土)に米国商務省が世界最大の半導体受託製造会社である台湾積体電路製造(TSMC)に先端半導体の中国輸出を11日(月)から停止にするよう命じたことなどもあって半導体関連株の多くも下落。

 14日(木)、オランダの最先端半導体製造装置メーカーASMLホールディング(ASML)がAIブームで今後5年間の増収率が年平均8~14%に達すると強気の見通しを示したことで多少持ち直しました。

 ただ日本株ではエヌビディア(NVDA)向けに半導体検査装置を販売するアドバンテスト(6857)が5.2%安。台湾のTSMCが大口顧客の半導体運搬装置のローツェ(6323)も14.6%も急落しました。

 トランプ氏が「台湾は米国の半導体ビジネスを奪っている」と発言したことに対し、中国の台湾政策担当の報道官が「台湾は(米国にとって)駒から捨て石になる可能性がある」と応酬。

 トランプ氏の対中強硬政策はAI半導体の生産を一手に担う台湾の半導体産業を巻き込む恐れもあり、日米半導体株はひょっとするとトランプ氏の極端な政策の最大の被害者になるかもしれません。

 一方、米国では10月CPIに続いて、14日(木)発表の10月PPI(卸売物価指数)も前年同期比2.4%増と前月の1.9%増から伸びが加速。

 来たる12月18日(水)終了のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利下げが見送られる可能性が浮上していることも米国株反落の一因となりました。

今週:エヌビディアは高過ぎる期待を超えられるか?日銀・植田総裁の発言にも注意! 

 今週はなんといっても米国高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)の日本時間21日(木)早朝の決算発表に注目です。

 エヌビディアはAI半導体の旺盛な需要を受けて、2023年5-7月期以降、売上高が前年同期比2~3倍に達する急成長を遂げています。

 株価も2023年の年初から先週11月15日(金)終値まで2年足らずで9.56倍値上がりし、2024年に入ってからも前年末比2.87倍と急上昇しています。

 しかし、前回8月28日の2024年5-7月期決算発表では売上高が前年同期比2.2倍と予想を上回ったものの、8-10月期の売上見通しが前年同期比約80%増と2倍に届かなかったことで株価が一時的に急落しました。

 同社に関しては市場が極端に高い売上成長を期待していることもあり、少しでもその期待を裏切るとAI関連株全体がパニック売りに見舞われる恐れもあります。

 米国では19日(火)に世界最大の小売チェーン・ウォルマート(WMT)も決算発表。

 低価格品を扱う同社は物価高に苦しむ消費者からの需要で業績好調、株価も急上昇中なだけに決算内容が注目されます。

 今週、米国では19日(火)に10月住宅着工件数、21日(木)に10月中古住宅販売件数など価格高騰や高金利で落ち込む住宅関連指標が発表されます。

 国内では日本銀行の植田和男総裁が、名古屋の経済懇談会や東京で開かれる国際フォーラムに出席を予定しています。

 先々週の7日(木)には、為替担当の三村淳財務官が足元の円安進行を受けて「極めて高い緊張感を持って注視する」と口先介入したものの、その後、さらに一時1ドル=156円台後半まで円が売られました。

 円安進行をけん制するため、植田総裁が12月19日(木)終了の金融政策決定会合で追加利上げの可能性に言及すると、円高や株安につながるかもしれません。

 ただ先週に引き続き、今週もトランプ次期米国大統領の過激な発言が最も市場の注目を集めることになるでしょう。

 先週14日(木)には反ワクチン活動で知られ、今回の大統領選にも出馬後トランプ氏支持に回ったロバート・ケネディ・ジュニア氏が、医薬品の承認を行うFDA(食品医薬品局)などを管轄する厚生長官に指名されました。

 これを受けて、新型コロナウイルス感染症のワクチンを開発したモデルナ(MRNA)が前週末比21%安、ファイザー(PFE)も7.2%安となるなど医薬品株が急落しました。

 トランプ氏の過激な言動のターゲットになるのが台湾関連の半導体株、ワクチンを開発する医薬品株、地球温暖化を防ぐための再生エネルギー関連企業など、予想外に広範囲に及ぶ可能性が浮き彫りになりました。

 とはいうものの13日(水)には米国議会下院でも共和党が過半数を握ることが確実になり、共和党が大統領と議会上院・下院を掌握する「トリプルレッド」を達成。

 今後の米国はトランプ氏の掲げる減税や規制緩和など株高につながりやすい法案が非常に成立しやすい状況になったのも事実です。

 今週のエヌビディアの決算が市場予想を上回るものだった場合、再びトランプ・トレードが市場を席巻する可能性もありそうです。