日米、金融政策の行方と株式市場への影響

 先週、米国と日本の中央銀行による金融政策の発表がありました。12日(東京時間13日未明)にFRB(米連邦準備制度理事会)がFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果を、週末の14日には、日本銀行が金融政策決定会合の結果をそれぞれ発表しました。

 結論として、米国株の上昇はまだまだ続きそうですが、日本株は横ばいが続きそうです。今回はこの辺りの背景を簡単にご説明したいと思います。

 まずはFOMCです。市場の想定通り「政策金利の据え置き」を決定しましたが、FOMC参加者による最新の金利見通し(ドットチャート)は、2024年利下げ予想を3回から1回に修正、パウエルFRB議長は記者会見にて、「早期の利下げ」に慎重な姿勢を示しました。

 ただ、パウエルFRB議長は「労働市場が予想外に弱まるか、インフレが予想よりも急速に低下した場合、対応する用意がある」とデータ次第で会合ごとに利下げの対応を行う姿勢を改めて示しました。

 FOMCの結果発表よりも先立って発表された5月のCPI(消費者物価指数)の伸びが鈍化したことで、「重要なデータであるCPI鈍化は利下げの可能性を強める材料」といった連想が働き、米国の10年物国債利回りは4月1日以来の4.22%まで下落しました。

 米国金利の低下傾向は、米国市場ではグロース企業(主にハイテク株)には追い風となりますから、ナスダック総合指数やS&P500種指数は連日で史上最高値を更新しています。

 一方、日銀は月間6兆円程度としている長期国債の買い入れを減額する方針を決定しました。減額に関するスケジュールなど具体策は次回の7月会合(30、31日開催)で決めるとのことで、植田和男日銀総裁は、記者会見にて「減額は相応の規模になる」との見解を示しました。

 また、7月会合での利上げの可能性を問われた際には「その時までに出てくる経済・物価情勢に関するデータ、ないし情報次第で、短期金利を引き上げて金融緩和度合いを調整することは当然あり得る」と回答しました。

 市場では、今回の会合で減額に関するスケジュールなど具体策が発表される、との見方を強めていましたので、「日銀はハト派(金融政策の正常化に消極的)」と評価され、為替市場では1ドル158円台と5月1日以来の水準まで円安ドル高が進み、長期金利の指標とされている新発10年物国債利回りは一時0.91%まで低下しました。

 長期金利低下は、米国同様、日本のグロース企業には追い風となるはずですが、14日の日経平均株価指数、TOPIX(東証株価指数)は小幅な上昇にとどまりました。プライム市場の売買代金は、14日こそ5兆3,000億円と久しぶりの5兆円台に乗せましたが、6月限先物・オプション特別清算指数(SQ値)算出に絡んだ売買(市場推計:約1.1兆円)を除くと4兆円少しです。

 6月平均売買代金は4兆289億円にとどまっており、迫力不足の地合いは変わらずのようです。14日の日銀会合の結果を受けても売買代金が膨らまなかったことから、「商い閑散」の相場展開は今しばらく続きそうです。

夏枯れ相場は、金利低下が追い風になる企業を狙え

 例年、梅雨明けごろの7月中旬ごろから8月中旬のお盆ごろまで、参加者が減少することで売買代金も減少する傾向が多いことから、「夏枯れ」相場と言われます。まだ日本の多くが梅雨入りしていない状況ですが、東京市場は既に夏枯れ相場入りした可能性はあります。

 参加者が減少し売買代金が減少することで、日経平均やTOPIXは方向感を失い小動きとなるでしょう。そして、プライム市場の時価総額が大きいTOPIXコア30などの大型株も、もみ合い相場が予想されます。

 売買代金が膨らまない背景としては、今年1~3月に日本株を買っていた外国人投資家が動きを止めていることが影響していると考えます。各社の今期業績見通しが保守的だったことなどさまざまな要因が挙げられますが、大ざっぱな説明ですと「よし、日本株を買うぞ! コア30を買うぞ!」というポジティブなニュースが不足しているわけです。

 外国人投資家がどのようなニュースで動き出すかは想像の世界ですが、「多くの日経平均採用企業の2025年3月期業績見通しが今期も増益に転じる」「金融正常化で脱デフレが明確となった(政府が世界に向けて発信など)」「世界的な日本株の見通し引き上げ」といった大きなネタが必要でしょう。

 こうした大きなネタが出るまでは、外国人投資家は動けない、つまり売買代金低迷の相場は続くと考えます。

 では、そんな状況が予想される中、どのような投資を考えたらいいでしょうか? ポイントは金利低下です。

 米国市場のくだりで少しご説明した通り、金利低下はグロース企業には追い風となります。なぜならば、有利子負債が多い企業ほど金利低下の方が恩恵を受ける(支払う利息が少なくなるので)からです。ハイテク企業などは工場など設備投資で多くの資金が必要ですので、金利低下によってコストも低下し、その分収益も大きくなります。

 であれば、「日本のハイテク企業を狙えばいい!」となりそうですが、ちょっとお待ちください。外国人投資家の動きが弱い状況下、ソニーグループ(6758)キーエンス(6861)など時価総額が大きいハイテク株の上昇は期待しにくいでしょう。

 また、私は、日本株のバリュー株、グロース株というカテゴリーが曖昧だと昔から思っています。電力株やガス株、銀行など金融株、小売株などPBR(株価純資産倍率)やPER(株価収益率)が低い業種はバリュー株、電気機器などPBR、PERも高い業種はグロース株ときれいに整理できます。

 では、トヨタ自動車(7203)はどちらなのでしょう? 今期1兆7,000億円の成長領域に投資する日本最大の時価総額を誇るトヨタ自動車のPBRは1.3倍ほどです。PBRのデータ上はバリュー株ですが、成長投資の規模はグロース株です。

 高配当利回り銘柄がバリュー株、無配当もしくは低配当利回りがグロース株、という整理もありますが、なんともはっきりしません。仮にトヨタ自動車をグロース株と位置付けても、日本最大の時価総額を誇るトヨタ自動車が、売買代金低迷の中上昇するイメージは皆さんも持ちにくいでしょう。

金利低下で上昇が期待ハイテク日本株5選

 そこで、今回はPBRが高い銘柄をグロース株として定義付けし、次の5銘柄をご紹介したいと思います。

  • 時価総額が3,000億円以下
  • 今期を含めた2期以上、営業利益、経常利益、純利益の全てで10%以上の増収増益
  • 昨年末比較で15%以上株価が下落している
銘柄名 証券
コード
市場 株価(円)
(6月18日終値)
ポイント
プラスアルファ
・コンサルティング
4071 プライム 1,885 タレントパレットで人事DXを推進中
ビジョナル 4194 プライム 7,050 主力のビズリーチ事業の成長鈍化は一時的
メドレー 4480 プライム 3,620 関心が高まりやすい医療DX銘柄の一角
カバー 5253 グロース 1,763 海外でVTuberグッズ販売の販路を拡大中
弁護士
ドットコム
6027 グロース 3,145 今年9月にAI利用した
新サービスのマネタイズ開始へ

プラスアルファ・コンサルティング(4071)

 人材活用をメインとしたデータ分析サービス「タレントパレット」を主軸として展開しています。人事DX(デジタルトランスフォーメーション:ITによる人事業務の効率化)関連の一角として注目しています。

 主力のタレントパレットは、2023年9月時点の社員数1,000名以上の大企業への導入割合は約40%(契約件数ベース)まで広がっており、2024年9月期も増収増益見通しと業績は好調です。今後は、タレントパレットを中心とした業容拡大を推進しつつ、教育向け新サービス「ヨリソル」を含めた囲い込みに取り組んでいく予定です。

 株価はまだ年初来安値圏を脱していませんので、今回の5銘柄の中では最も出遅れていると考えています。

ビジョナル(4194)

 CMで有名な会員制転職サービスの「ビズリーチ」や人材管理「ハーモス」を展開しています。AI(人工知能)化を進めており、最短30秒で求人を自動検索する機能を導入しています。

 13日に発表した業績では、主力のビズリーチ事業の2024年2-4月期売上水準などがネガティブに捉えられて、先週末は大幅安となり、年初来安値を更新しました。ただ、4月に実施された賃上げによる一時的な鈍化とも捉えられるため、株価の反応は過剰と考えられます。見直し買いの流れに期待します。

メドレー(4480)

 日本最大級の医療介護求人サイト「ジョブメドレー」やオンライン診療システム「CLINICSオンライン診療」などを展開しています。医療DX銘柄の一角として注目します。

 5月の2024年1-3月期業績発表の際、グロース市場に上場していた医療・介護関連事業社のグッピーズを買収し連結化したことなどに伴い、2024年12月期通期業績予想を早々に上方修正しました。

 上方修正発表後も株価はさえない推移が続いていましたが、5月末の3,000円割れ回避のタイミングで反発。年初来安値圏からの反発継続に期待します。

カバー(5253)

 VTuber事務所「ホロライブプロダクション」の運営や、メタバースなどバーチャル領域のビジネスを展開しています。ライセンス事業やグッズ販売などが好調に推移しているほか、人気の北米に海外拠点を設け、新たなグッズ販売などの販路拡大を進めているほか、8月から初のワールドツアーを開催するなど話題豊富です。

 先週、同社の競合他社であるANYCOLOR(5032)が好業績および高水準の自社株買いを発表したことで急騰しました。同社の刺激材料となっていることから、年初来安値圏からの反発継続を期待します。

弁護士ドットコム(6027)

 日本最大級の企業法務ポータルサイト「BUSINESS LAWYERS」の運営や、電子契約サービス「クラウドサイン」などを展開しています。BUSINESS LAWYERSの会員数がサービス開始から7年で10万人を突破するなど、企業の法務関連の人材不足のニーズをうまく取り込んでいます。2025年3月期も増収増益見通しと業績は好調です。

 現在、AIを活用した「リーガルブレイン構想」を通じたサービス展開を進めており、今年9月にマネタイズの開始を計画しています。過去の判例をAIによって補完する戦略は、弁護士の業務および企業の法務を大きく変える可能性を秘めていることで、大変楽しみな構想だと思います。