2024年4-9月期決算シーズン開始

 10月下旬に入り、「年末の日経平均株価がいくらになるか?」「来年の日本株はどうなるか?」という質問をラジオやセミナー、雑誌の編集者さんから受けるようになりました。こうした質問が来ると、「あぁ、もう年末か…」と、なんとなく物悲しい気分になりますが、今年最後の決算発表シーズンがスタートしますので、アンニュイな気分に浸っている暇はありません。

 10月下旬から11月中旬にかけては、3月期決算企業の2024年4-9月(上期)決算のほか、6月期決算企業の2024年7-9月(第1四半期)決算、9月期決算企業の2024年9月期本決算、12月期決算企業の2024年1-9月(第3四半期)決算などが続々と発表されます。

 3月期決算企業は、プライム市場の7割ほどを占めていますので、この時期、決算発表に一喜一憂する投資家が増え「決算プレイ」という言葉が飛び交います。

 NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を通じて投資を行っている方は長期投資が前提ですので、四半期ごとの決算に惑わされる必要はさほどありません。とはいえ、そこは人間ですので気になるでしょうし、一喜一憂するのは仕方ありませんし、1年に4回しか発表されない決算は、企業の状況を確認する上で非常に重要です。

 今回は、企業決算で注目する点を簡単にお伝えします。

企業決算で注目すべき三つのポイント~「期待・警戒」「進捗率」「予想との乖離」

「増収増益」「過去最高利益」「過去最高の売上高」といった言葉が並ぶ決算発表でも、株価が売られるケースは頻繁にあります。逆に「減収減益」「赤字継続」で株価が上昇するケースもあります。こうしたケースの背景にあるのは「期待感・警戒感」と「業績予想に対する進捗(しんちょく)率」「業績予想との乖離(かいり)」の3要素があると考えます。

 一つ目の「期待感・警戒感」とは、決算への期待感が強いのか、それとも、警戒感が強いのか、という意味合いです。つまり、決算発表前に株価が上昇していれば「期待感」が強く、「警戒感」が強ければ株価は下落しています。

「期待感」が強いというのは、「好決算が出るかもしれない」と思っている投資家が多い状況です。逆に「警戒感」が強いというのは「厳しい決算が出るのではないか」と思っている投資家が多い状況です。「期待感」が強く、株価が上昇している中好決算が発表されても「材料出尽くし」感が先行して株価は下落するケースがあります。

 一方、「警戒感」が強く、株価が下落している中厳しい決算が発表されても「悪材料出尽くし」感が先行し株価は反転するケースがあります。株価には投資家心理が織り込まれており、決算発表を控えている銘柄は「期待感」「警戒感」のどちらかが織り込み済みなケースが多いため、決算発表直前の株価の動向は非常に重要です。

 二つ目の「業績予想に対する進捗率」は結構シンプルです。会社が発表している年間の業績予想に対して、何%進捗しているのかを確認します。例えば、上期決算発表では、単純に50%の進捗率であれば計画通りという考え方になります。進捗率が高いと、年間の業績予想を上方修正する可能性もありますので、株価にはプラスとなります。

 一方、低い進捗率の場合は、年間の業績予想を下方修正する可能性がありますので、株価にはマイナスとなります。一点注意点ですが、業種や事業内容によっては売り上げや費用の計上時期が偏る「季節要因」があるなど、企業によって決算の癖はありますので、過去数年分の決算も合わせて確認する必要があります。

 三つ目の「業績予想との乖離」は、会社の業績予想と証券会社などの業績予想との乖離を指します。証券会社のアナリストレポートは、個人投資家の方はなかなか手に入らないものですが、会社四季報の業績予想は、楽天証券に口座をお持ちの方ですと「Market Speed」の「会社四季報」から四季報予想を確認することが可能です。

 会社が通期業績予想を上方修正したとしても、こうした四季報予想に届いていなければ、株価は売られる可能性があります。特に、足元では為替動向が不透明なため、今期は多くの企業が保守的な業績予想を発表しています。このため、当初予想を上方修正する企業が多くなる可能性がありますので、四季報予想との比較はより重要視されるでしょう。

2024年4-9月期決算、注目の日本株5選:トヨタ、ソフトバンクG、東京エレクトロンなど

 簡単に三つのポイントをご紹介しましたが、決算は業種や銘柄によって癖があります。決算短信は専門用語が多く、取っつきにくいかもしれませんが、決算の補足資料として図解資料や、決算内容動画を公開している企業も増えていますので、そちらを確認するのもいいでしょう。

 10月下旬から11月中旬の3週間ほどで、2千社近い決算が発表されますので、ぜひ気になる企業の決算をのぞいてみてください。決算内容と株価の動向を見比べると、これまでとは違う楽しみ方に出合えると思います。

 それでは、最後に決算発表で注目したい銘柄を五つご紹介しましょう。いずれの銘柄も日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)への影響度が高いことから、市場の方向性を占う上で押さえておきたいところです。

銘柄名 証券コード 株価(円)
(10月22日終値)
決算発表日 注目ポイント
三菱重工業 7011 2,159.5 11月5日 防衛・宇宙関連銘柄
トヨタ自動車 7203 2,545 11月6日 日本株式会社の復活なるか
東京エレクトロン 8035 22,990 11月12日 2024年の半導体関連銘柄の筆頭
三菱UFJ FG 8306 1,591.5 11月14日 金融政策正常化の流れを追い風に
ソフトバンクグループ 9984 9,014 11月12日 投資先の半導体株の株価動向に注目

※FGはフィナンシャル・グループの略

三菱重工業<7011>

 日本を代表する重厚長大企業のシンボル的な企業です。市場では防衛関連、宇宙関連の一角と見られており、防衛予算の増大を背景に右肩上がりの株価推移が続いています。売買代金ランキングでは上位ランクインの常連で、NISA口座を通じて保有される方も多いでしょう。個人投資家のみならず機関投資家の関心も非常に高いことから注目です。

トヨタ自動車<7203>

 言わずと知れた「日本株式会社」ですが、株価は3月高値をピークに下落傾向が続いており、1月大発会の水準を下回っています。不安定な為替動向に加え、型式指定の不正やEV(電気自動車)市場の減速などが株価の重しになっているようです。

 会社予想は四季報予想に比べ、売上高は2兆円、営業利益は8,000億円それぞれ下回っています。保守的な会社予想と市場では指摘されていますが、上期決算で業績予想を上方修正するかどうか、そして、四季報予想にどれだけ近づいてくるかが注目されます。

東京エレクトロン<8035>

 年初から春先の日経平均上昇の原動力となった半導体関連銘柄です。米半導体大手エヌビディアやTSMC(台湾セミコンダクター)などの業績や株価動向にも左右されやすい傾向があります。

 個人投資家が保有しているケースは低いかもしれませんが、単純計算で、同社が1,000円上がると、日経平均は100円上がりますので日経平均に大きな影響を与えることから大変注目されています。エヌビディアの旗艦半導体「ブラックウェル」の旺盛な需要が予想されていることは、同社への支援材料となりそうです。

三菱UFJ FG<8306>

 世界トップクラスの総資産を誇る、国内トップの銀行です。今年3月の日本銀行による金融正常化によって、段階的な金利引き上げに対する期待感が高まりつつあります。

 業務の幅が広いことから、貸出事業がメインである地方銀行ほど金利上昇の恩恵を受けているわけではありませんが、賃金や地価上昇など脱デフレが明確化となれば、経済の心臓である銀行は関心が高まるでしょう。今期業績よりも、来期業績など先への期待感の方が大きいと言えます。

ソフトバンクグループ<9984>

 通信事業のほか、傘下にベンチャー投資を行うビジョンファンドを有しており、英国半導体設計のアームを保有していることから、市場では半導体株の一角とも見られています。株価動向によって投資事業は上下に振れやすい傾向がありますので、決算内容は非常に読みにくいと言えるでしょう。

 日経平均への影響が非常に大きいことから、決算発表直前の市場はドキドキハラハラといったところです。7月に史上最高値をつけたアームは下げ止まっていますが、今回の決算に与える影響はどうでしょう。