日銀、金利据え置き

 日本銀行は10月30、31日の両日、金融政策決定会合(日銀会合)を開き、「政策金利0.25%の据え置き」を決めました。市場の想定通りだったことから、為替や株式市場への影響は限定的でした。

 同時に発表された「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」において、2025年度の生鮮食品を除いた消費者物価指数の見通しは1.9%増と、前回7月時点の見通しと比べて0.2ポイント低下。2026年度は1.9%増と、前回の見通しと同じ水準となりました。

 2025年の物価見通しを下方修正しましたが、足元のエネルギー価格の下落傾向を考慮しての内容、つまり誰もが予想していた内容でしたので、市場への影響はほぼありません。

 公表された時間は11時40分台と非常に早い時間帯でした。公表時間が遅くなればなるほど、市場では「何か議論しているのか? 何か想定外の事が公表されるのか?」といった思惑が高まり、為替、株式市場があらぬ方向に動く傾向があります。

 植田和男日銀総裁が総裁に就任した昨年以降の日銀会合終了時刻(市場に公表結果が伝わるのは、終了の7分後)は以下の通りです。

【2023年】
4月28日(金)・・・12時53分終了、最初の植田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持、金融緩和策のレビューを多角的に実施することを決定
6月16日(金)・・・11時40分終了、前回会合の方針を維持
7月28日(金)・・・12時21分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限を1.0%まで引き上げ)
9月22日(金)・・・11時45分終了、前回会合の方針を維持
10月31日(火)・・・12時20分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限1.0%をメドに変更)
12月19日(火)・・・11時42分終了、前回会合の方針を維持

【2024年】
1月23日(火)・・・12時02分終了、前回会合の方針を維持
3月19日(火)・・・12時28分終了、マイナス金利の解除、長短金利操作の終了、ETF(上場投資信託)などの買い入れ終了
4月26日(金)・・・12時15分終了、現状の金融政策を維持、展望レポート見通し引き上げ
6月14日(金)・・・12時16分終了、国債買入額を引き下げる方針決定、詳細は7月に公表
7月31日(水)・・・12時49分終了、国債買入額の減額と利上げ実施を発表
9月20日(金)・・・11時45分終了、前回会合の方針を維持
10月31日(木)・・・11時41分終了、前回会合の方針を維持

 いかがでしょう。何かしら決定をした日の終了時間はいずれも12時台で、「前回会合の方針を維持」の場合、1月23日会合を除くといずれも11時台です。

 FOMC(米連邦公開市場委員会)やECB(欧州中央銀行)会合など多くの中央銀行の公表時刻は決まっていますが、日本は何時に公表されるか分からないため、市場関係者や投資家は公表日の11時30分を過ぎるとそわそわし始めるのです。

植田総裁の発言を振り返る

 さて、日銀会合の公表日には、植田総裁の記者会見も実施されます。こちらは15時30分とスタート時間は決められており、大体1時間で終了します。比較的、植田総裁の記者会見中に為替市場は上下に振れるケースが多いため、植田総裁が何を話すのか非常に注目されています。

 今回の記者会見中は、ドル/円が152円後半から152円前半へと、やや円高ドル安に振れる場面が見られました。市場は植田総裁のどういった発言に反応したのでしょう。植田総裁の主な発言は下記の通りです。

「見通しが実現していけば政策金利を引き上げ、緩和度合いを調整する」
「12月会合では多角的レビューをとりまとめる」
「利上げのタイミングについては予断を持たず」
「毎回の会合でデータを確認する」
「為替は経済・物価に以前よりも大きな影響与える、引き続き注意は必要」
「特定の政治家の発言にはコメントせず」
「政治情勢にかかわらず、基本姿勢で臨みたい」
「時間的余裕との表現について、8月の弱い米雇用統計後の市場混乱の時期に使い始めた」
「現状はデータが改善、米国もかなり良いものがでているが完全に安心はできない」
「米経済に良い動きが続けば、時間的余裕との表現は不要になる」
「東京CPI(消費者物価指数)は、ある程度サービス価格への転嫁広がっている」
「賃金、インフレ目標と整合的な水準に入ってきている面がある」
「現時点では、来年の春闘に対する情報がないので具体的な話はできない」
「広い意味で今年と同じぐらいの賃上げ率となればいいが、これだけが利上げの判断材料ではない」
「新しい米大統領の政策次第では、新たなリスクが出てくる可能性もある」
「現在の所定内給与の伸びが続けば、見通し実現の確度は高まる」
「足元の政治情勢は物価見通しに大きく影響しない」
「時間的な余裕、という表現は今後使わない」
「ETFに関しては、現状まだ検討中、もう少し時間をいただきたい」

 以上が記者会見中に植田総裁が発した主な発言内容です。発言内容から、「利上げに関しては前向きに考えている」という姿勢は見て取れますが、これまでの記者会見でも度々発しておりましたので想定線の発言内容と考えます。

タカ派?ハト派?揺れ動く日本の金融政策

 一方、8月以降、度々聞かれた「時間的余裕がある」という表現を「今後、使用しない」と今回述べています。ここが円高に振れたポイントと考えます。「時間的余裕がある」という表現は、追加利上げ実施への当面の慎重姿勢を示すものと市場では理解されていました。この表現を今後使用しない、ということは、「慎重姿勢」を排除したことを意味します。

 これまでの「追加の利上げ実施に対しては前向きだが、慎重な姿勢を崩さない」から、「追加の利上げ実施に対しては前向き」という方針に変わった、つまり「タカ派(利上げに前向き)」に転じたわけです。

 7月会合は「タカ派」で市場は大荒れとなり8月5日の「令和のブラック・マンデー」が発生しました。その後、9月会合では「ハト派」に転じましたが、10月会合では「タカ派」に転じるなど、足元、日銀および植田総裁の金融政策の方針は揺れ動いているように見えます。

 日銀は数十年ぶりに利上げを実施しているわけですので、金融政策の方針が揺れ動くのは仕方ないことです。しかも、10月27日の衆議院選挙の投開票後、政局の不透明感は強まったままですし、米国の次期大統領が誰になるのか、そして、FRB(米連邦準備制度理事会)は今後、どういったペースで利下げを実施するのかなど外部環境も見極めるべき材料がめじろ押しです。

 今しばらく、日銀声明や植田総裁など日銀関係者の発言に市場が一喜一憂する展開は続くでしょう。年内最後の日銀会合は12月18日(水)から19日(木)に開催されますので、結果内容はもちろんのこと、会合の終了時間や終了後の15時30分から開催される植田総裁の記者会見などに注目してはいかがでしょう。

金融株、空運株5選:金利上昇メリット大!日銀の追加利上げに備える

 今後、日銀および植田総裁など日銀関係者は、追加の利上げ実施に前向きな発言をし続ける可能性がありますので、長期金利の指標となる10年国債利回りは上昇するかもしれません。じりじりとした金利上昇が期待できる相場展開となれば、銀行、保険、証券の金融株や空運株など金利メリット銘柄の動向に注目です。

銘柄名 証券コード 株価(円)
(11月6日終値)
特色
九州FG 7180 782.1 TSMCの熊本進出での経済波及効果は10年間で約11兆と試算
三井住友FG 8316 3,473 0.1%の利上げで400億円の資金利益
第一生命HD 8750 3,981 0.1%の利上げで含み資産が2,500億円増加
ANA HD 9202 2,855 利上げに伴う円高で邦人海外旅行増加に期待
ニトリHD 9843 1万8,685 セブン&アイの動向次第では買い需要発生の可能性も

※FGはフィナンシャルグループ、HDはホールディングスの略

九州フィナンシャルグループ<7180>

 熊本地盤の肥後銀行と鹿児島地盤の鹿児島銀行を傘下に持つ大手地方銀行です。TSMCの熊本進出をきっかけに半導体融資に力を入れています。

 TSMCの熊本進出にともなう経済波及効果は2031年までの10年間で約11兆2,000億円に上ると同社は試算していますので、関連企業への融資増大が中長期的に期待できるでしょう。当然ながら金利ビジネスを展開していますので、金利メリット銘柄ですので今後の展開に注目です。

三井住友フィナンシャルグループ<8316>

 三井住友銀行を中核とした金融持株会社で、メガバンク3行の一角です。円金利上昇による資金利益の影響は、0.1%当たり400億円増えると試算しており、典型的な金利上昇メリット銘柄と言えます。

 メガバンクでよく比較される三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)と比べると海外ウエートが低いことから、米国の利下げによる影響は相対的に低いと考えられます。なお、2024年4-9月期(上期)決算発表を14日に控えています。昨年は上期決算発表のタイミングで増配を発表していましたので、今期も注目したいところです。

第一生命ホールディングス<8750>

 生命保険大手の一角で海外事業を急拡大中です。会社資料によりますと、10年国債利回りが0.1%動くと含み資産は2,500億円増減します。ちなみに、日経平均株価が1,000円動くと含み資産は900億円増減しますので、日々の値動きでも含み損益は大きく動きます。

 同社をはじめ保険株は日経平均の上昇ではさほど動きませんが、金利上昇では見事なまでにポジティブな反応を示しますので金利メリット銘柄としてぜひとも押さえておきたい銘柄です。2024年4-9月期(上期)決算は14日を予定していますので注目しましょう。

ANAホールディングス<9202>

 国内線、国際線ともに国内トップの航空会社です。原油価格がさほど伸び悩む一方、円安推移による訪日外国人客の大幅な伸びが業績にプラスとなっています。今後、利上げが進むことで、為替は円高に振れる可能性が高いことから、国内から海外への旅行客増加が期待できます。

 いったん増加した訪日外国人客は、海外の富裕層を中心に口コミで訪日客が増えつつあることから、円高になっても減少は回避できると考えます。

 10月31日に発表した2024年4-9月(上期)決算において、2025年3月期通期売上高、経常利益、当期純利益をそれぞれ上方修正しましたが、それでも過去最高益だった2024年3月期比では減益見通しです。今後は前期実績にどこまで近づくことができるか注目です。

ニトリホールディングス<9843>

「お値段以上」をキャッチフレーズに家具・インテリア専門店を全国でチェーン展開しています。自社企画のPB(プライベートブランド)商品が9割を占めており、ほとんどがアジアの自社および協力工場から調達していますので、金利上昇による為替の円高進行でのメリットは大きくなります。 

 なお、可能性が低いかもしれませんが、カナダ企業からM&Aを受けている小売最大手のセブン&アイ・ホールディングス(3382)が上場廃止となった場合、同じセクター内で時価総額が大きい同社やファーストリテイリング(9983)イオン(8267)にはセクター内のリバランスに伴う買い需要が発生するかもしれません。