公的年金は単純な増額とはならないが、長生きするほど有利

 今回の改正によって、公的年金とiDeCoのどちらも75歳から受け始める選択肢が追加されますが、性格や仕組みは少々異なります。分けて整理をしてみましょう。

 公的年金については、「終身給付」という基本的なルールがあり、受け始めるときに増減額が決まり、これを一生涯受け続けることになります。

60歳から受け取る場合

 たとえば、前倒して60歳から受け取りにした場合、24%減額(新制度で月0.4%×60月)の年金を60歳から一生涯受け続けます。最初のうちは、まだもらえない年齢で76%相当の年金額をもらえるので、一見するとお得です。しかし、長生きするほど総受取額は減ってしまいます。ざっくり計算すると受け取りスタートから15年を過ぎるくらいで逆転します。平均余命を考えれば「分の悪い選択」です。

75歳から受け取る場合

 一方、75歳まで遅らせて受け取ると、65歳から75歳になるまでは無年金ですが、84%増額された年金を75歳から一生涯受け続けます。平均寿命くらいならほぼトントン、それ以上長生きすれば、お得となります(仮に65歳から受け取り始めた年金水準を100として考えます。65歳から男女平均余命の22年受け取ったとすれば2,200ポイント相当になり、75歳から受け始めた年金水準を184として、男女平均余命の12年受け取ったとすれば2,208ポイント相当になります)。

公的年金収入は課税対象。年金額アップで負担増も

 ただし、公的年金収入は課税対象となり、高額所得者ほど所得税・住民税額が増えることは避けられません。健康保険料や介護保険料も所得に応じて定まるので、負担増になります。現在なら平均的な年金生活者が「ちょっとだけは負担する」というイメージですが、84%も年金がアップすると、すべてを丸取りできず、課税の負担増がアップした分を少し打ち消すことになります。

 また、10年も遅らせて受け取る場合に、増額率が直線的という不思議もあります。5年くらいだと簡単な仕組みとして「月数×増減率」でよかったのですが、財産権の受け取りを10年も留保したと考えた場合、複利で受給権が増えてもいいように思います(ただし、制度は複雑になり、金持ちが有利との批判も避けられないので、設計は現実的ではないかもしれない)。