ワクチン開発加速に向けた希望で見出す「トンネルの出口」

 欧米に続き日本でも移動制限の段階的緩和へ移行して経済活動回復が期待される一方、新型コロナの感染再拡大(第2波)が不安要因です。治療薬やワクチンの開発と量産が待たれます。

 米トランプ大統領は15日、新型コロナウイルスのワクチン開発を加速させるべく「ワープ・スピード作戦(Operation Warp Speed)」を開始すると発表しました。約100億ドル(約1兆700億円)を拠出し、複数の有望ワクチン候補の開発・承認・量産・備蓄を同時的に支援。「できれば年内、その前にワクチンが手に入るようにしたい」(トランプ大統領)と表明しました。

 とはいっても、ワクチンの有効性や量産化には不確実性が高い状況です。ワープ・スピード作戦では、有望な候補をすでに10種類未満に絞り込んだとされ、迅速かつ同時的に治験(臨床試験)を行い、その効果や安全性を確認しながら、通常1~2年かかるワクチンの開発から大量備蓄のプロセスを加速させるというプロジェクトです。

 トランプ大統領は(物騒ですが)「マンハッタン計画」(第2次大戦中の原爆開発プロジェクト)になぞらえ、「巨大な科学、産業、物流の試みだ」と位置づけ、作戦トップに米陸軍大将(資材部隊・司令官)を起用しました。こうした超高速作戦で、感染再拡大のリスクが高まる年末に向け「年内にもワクチンを開発し大量供給したい」との方針です。

<図表4>モデルナの高騰とバイオ相場が示すワクチン開発への期待

*上記は参考情報であり、個別銘柄への推奨を目的とするものではありません。
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年7月初~2020年5月20日)

 こうしたなか、5月18日の米国市場でダウ平均が前日比911ドル高(終値:2万4,597ドル)と約3週間ぶり高値をつけました。バイオ医薬ベンチャーのモデルナ社(MRNA)が「新型コロナウイルス用ワクチンの初期の治験(第1相試験)で有望な結果が出た」と発表したことが主要因です。

 モデルナが開発するワクチンは「ワープ・スピード作戦」の対象になっているとの観測もあります(未公表)。株価動向で市場がいかにワクチン開発の進展を期待しているかがうかがわれます。

 図表4は、モデルナの株価と(モデルナを構成銘柄に含む)ナスダック・バイオテクノロジー指数の推移を示したものです。モデルナの株価は年初来300%超に上昇し、ナスダック・バイオテクノロジー指数は5月11日と19日に史上最高値を更新しました。

 ただ、19日にSTAT(医療関連ニュースサイト)が「モデルナの治験はサンプル数が少なく、一部の重要な情報を公表していない」と報じるとモデルナは急落。ナスダック・バイオテクノロジー指数も一時反落しました。モデルナは「試験は今後も対象を広げて続ける」とし、「最終段階(第3相試験)は7月に健康なボランティア数千人に協力してもらう可能性が高い」としています。

 このように、感染動向や経済復興を巡る報道だけでなく、ワクチンの開発・承認を巡るニュースフローが株式市場のセンチメント(市場心理)に影響を与える可能性が高くなっていると言えそうです。生物学的脅威(新型コロナウイルス)に戦いを挑むのは、金融政策や財政政策だけでなく、人類が作り出す生物学的イノベーション(バイオテクノロジー)の進展とも考えています。

「アフター・コロナ」よりも「ウイズ・コロナ」(感染リスクとの共存)と呼ばれる今後の材料として「トンネルの出口に明かりを灯すワクチン」に希望を見出したいと思います。

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