米大統領選挙における投票日(2020年11月3日)までのトランプ氏の動向がカギ

 前述したとおり、筆者が想定する2020年の各貴金属の高値は、金1,700ドル、銀25ドル、プラチナ1,200ドル、パラジウム2,100ドルです。こう予測する理由について、詳しく解説していきます。

 筆者は以前の「金価格上昇どこまで?トランプという「有事製造機」は大統領選までノンストップ?」で述べたとおり、近年の貴金属相場にはトランプ米大統領の考え方、行動が強く影響していると考えています。

図:近年の金相場を取り巻く環境(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 このため、2020年の貴金属相場のことを考える上で、2020年11月3日の大統領選挙で勝利するために、トランプ氏はどのような行動をとるのか? ということを考えることが非常に重要であると考えています。

 例えば、2017年1月の大統領就任以降、私たちが見てきたトランプ氏の行動は、歴代の米国大統領と異なる点が多く、異端な大統領というレッテルが貼られることが多かったと言えます。

 大統領就任後のトランプ氏の行動は、同氏が最初から言っている“アメリカ・ファースト”つまり、米国第一主義を貫いていると考えられます。そして、米国第一主義のもと、対外的な交渉は、敵対する国に対して、一対一に持ち込んで、力で打ち負かそうとするビジネスライクなものです。

 さまざまな見方はありますが、トランプ氏の行動理念は“ビジネスライクなブレない米国第一主義”と言えると思います。また、米国第一主義には、現在の米国を優先することに加え、かつての米国を復活させる、という意味が含まれると思います。

 パリ協定からの離脱=石油産業と石油を使う自動車産業への配慮。中国や日本、欧州向けに農産物の輸出交渉=米国の農業への配慮。アルミと鉄鋼製品の輸入の際、関税を引き上げたこと=米国の鉄鋼業への配慮。いずれも米国の伝統的な産業を保護し、復活させる意味があります。

 そして、世界の覇権争いに名乗りを上げた中国を強くけん制することで、超大国・世界の警察を標ぼうした、かつての「強い米国」を知る米国民のアイデンティティーに火をつけた面もあると思います。かつての米国の伝統産業の復活・保護、世界の覇権を奪取する姿勢を強めることが、異端とも言われるトランプ大統領の真骨頂であるわけです(もちろん、賛否両論あります)。

 賛否両論を楽しんでいるかのようにも見えるトランプ氏は、再選に向けてどのような行動をとるのでしょうか? 筆者は、基本的には、米国第一主義という姿勢は変わらないと考えています。むしろ、再選向けた選挙戦を戦う上でその姿勢を“さらに強める”可能性があると考えています。

 間接選挙とはいえ、投票を行うのは米国の一般の有権者です。国内では伝統産業を重視し、対外的には、他国に迎合せず、中国と真っ向勝負できる強さを持つ「米国第一主義」を貫くトランプ氏は、石油、自動車、農業、鉄鋼などの伝統産業に従事している有権者、そして米国がそれらの産業で栄華を極めた時代を知っている有権者にとって、民主党が際立って魅力的な対抗馬を出さない限り、引き続き、票を投じる対象になり得ると考えられます。

 また、トランプ氏が選挙戦を戦う上で“米国第一主義を貫く”姿勢以外に、気にかけているとみられる具体的な数字が2つあります。米国の株価と失業率です。

 株価と失業率は、ほとんどの有権者において、景気が良いか悪いかの判断をする際に用いることができる数字です。株価が上昇し、失業率が低下していれば、多くの人が、景気が好転している“浮遊感”を感じることでしょう。

図:米国の失業率とNYダウ

出所:米労働省およびNYSE(ニューヨーク証券取引所)のデータより筆者作成

 仮に、他の経済指標や、より詳細なデータが景気後退を示していたとしても、株価が上昇し、失業率が低下していれば、景気は良くなっていると感じる有権者は少なくないと考えられます。

 トランプ氏が大統領選挙で勝利してから、3年が経ちましたが、その間、株価は史上最高値を更新し続け、失業率はおよそ50年ぶりの低水準まで低下しました。トランプ氏が記録的な高水準の株価と低水準の失業率を主導した(少なくとも過去からの傾向を妨げなかった)ことは、一般の有権者には強いアピールになるとみられます。

 米国第一主義に基づき、伝統産業を重視し、敵国と戦う強い姿勢を維持する、そして、一般の有権者が容易に理解できる具体的な数字である株価と失業率を、景気が良くなっていく方向に導く、ということが、トランプ氏が大統領選挙までにとる行動だと考えられます。