トランプ氏は一般の有権者が景気回復を認識しやすい“株高・失業率低下”を演出する?

 米大統領選挙に関わる一連のスケジュールを確認します。

図:2020年の米国大統領選挙までの選挙関連の主なスケジュール

出所:各種情報源より筆者作成

 米国の大統領選挙は、有権者が大統領候補に直接投票しない、間接選挙です。有権者は、2月から6月にかけて全米で州ごとに行われる予備選挙や党員集会で、投票や話し合いで各党の候補者を推薦する代議員を選出したり、11月の大統領選挙で12月に大統領候補に投票をする選挙人に投票したりします。

 各党の最終的な大統領候補者(1名)は、7月と8月に行われる党ごとの大会で決定します。その後、9月から10月の3回の各党の候補者による公開討論会を経て、大統領選挙を迎えます。

 11月の大統領選挙で、州ごとに割り振られた選挙人(各党の候補者を推薦する人)を多く獲得できた候補者が、12月の選挙人による投票で過半数を占めることとなります。選挙人はあらかじめ選挙人による投票において投票する候補者を誓約しており、造反がない限り、選挙人は推薦を予定していた候補者に投票します。

 そして、翌1月の正式決定(選挙人による投票の開票)、大統領就任式、一般教書演説と進みます。

 全体的には、2月から6月にかけて予備選挙・党員集会で、各党の候補者が絞られ、7月と8月の党大会で各党の大統領候補者が決まり、11月の選挙で事実上、次期大統領が決定する、という流れです。

 このような流れに対し、再選に向けて、トランプ大統領はどのような戦略をもって臨むのでしょうか? 先述のとおり、トランプ大統領は再選を果たすため、米国第一主義を貫き、株価をさらに上昇させ、失業率をさらに低下させる施策を行うとみられます。

 例えば、株価は、数カ月から1年程度先の、期待や不安などの思惑を織り込みながら推移すると言われています。つまり、市場に、中長期的な時間軸の大きな期待が生じれば、株価は上昇しやすくなると言えます。

 トランプ大統領は、期待を市場にもたらす手段を有していると考えられます。その手段とは、米中貿易戦争の段階的な鎮静化と、かねてから継続してきたFRB(米連邦準備制度理事会)への利下げ圧力を強めることです。

 もともと、米中貿易戦争は2018年春ごろから悪化し、秋ごろから激化し始めました。知的財産保護や貿易の不均衡の是正、拡大する中国の覇権をけん制することなどを目的とし、トランプ大統領が主導してきました。

 ただ、足元、米中貿易戦争は、第一弾の合意として、米国による一部の関税の引き下げや、中国による農産物輸入の拡大など、段階的な鎮静化の一歩を踏み出しました。さまざまな問題は残っているものの、世界規模で懸念を振りまく同問題が鎮静化の一歩を踏み出したことは、株式市場にとってはプラス材料と言えます。

 振り返れば、米中関係が激化したのも、鎮静化の一歩を踏み出したのも、トランプ大統領が主導して起きていること、と言えます。自分で悪化させた材料に対し、自分で鎮静化させていくことで、株式市場にプラスの影響を与え、結果として大統領選挙を有利に進めることができるわけです。

 このように考えれば、米中貿易戦争が激化したのは、トランプ氏が2020年11月の大統領選挙1年前から景気回復を主導していることをアピールし、かつ株価を上昇させて、再選を果たすためだった可能性はゼロではないのかもしれません。

 足元、米中貿易戦争は鎮静化に向けた一歩を踏み出したわけですが、トランプ氏が今後も、米中貿易戦争を具体的に鎮静化させればさせるほど、市場に将来への期待が高まり、株価がさらに上昇しやすくなるわけです。その期待が実態経済に波及すれば、失業率がさらに下がる可能性が高まります。

(自分で悪化させたとはいえ)米中貿易戦争を鎮静化させる余地と術(すべ)を手中にしているトランプ大統領は、予備選挙・党員集会の時期はもちろん、特に民主党の候補者と一騎打ちとなる9月・10月の公開討論会の時期に、この余地と術を効果的に使い、討論会を有利に進め、一般の有権者の支持を増やすと考えられます。

 また、米国は、日本や欧州に比べて金利の水準が高く、今月12月に利下げは行われなかったものの、利下げができる余地を有する数少ない先進国の一つです。

 かねてからトランプ氏はFRBに利下げをするよう、圧力をかけていますが、今後、特定の経済指標が悪化したり景気の回復が鈍くなったりした場合、2019年のように予防的な利下げが行われる可能性があります。

 このため、仮に米中貿易戦争の鎮静化がうまくいかずに景気の回復が鈍化しそうになっても、圧力をかけ続けてきたFRBが利下げを実施すれば、景気回復期待が高まり、株価上昇継続への望みをつなぐことができます。

 株価上昇・失業率低下のための施策の本丸は米中貿易戦争の鎮静化であり、もし鎮静化がうまくいかなくてもFRBに圧力をかけて利下げを実施させる、という2段構えの構図になっています。

 あらかじめ、米中貿易戦争を激化させ(景気回復余地を拡大させ)、FRBに一貫して利下げ圧力をかけ続けてきたトランプ氏だからこそ、このような芸当ができるのだと思います。

 さらには、イスラエルやアフガニスタン、イラン、ベネズエラ、北朝鮮などの情勢回復を行えば、なおの事、市場に、懸念を払しょくしてくれる大統領、という印象を与えることができます。

 米中貿易戦争を鎮静化させ、その他さまざまな懸念を払しょくさせることについて、予備選挙・党員集会、各党の候補者確定の時期(2~8月)までは、小規模なものにとどめ、公開討論会(9月・10月)に本格化させ、大統領選挙(11月)に臨む、という戦略が考えられます。

 このように考えれば、株価は、2~8月に小幅上昇、9月・10月に騰勢を強める可能性が出てきます。そして、株価を含んだ諸情勢の動向を映し、金や銀、プラチナ、パラジウムといった貴金属価格が動くと考えられます。

 4年に1度の米大統領選挙の年、選挙に伴う特有の材料が発生することが想定され、貴金属相場も、強く、大統領選挙を意識した展開になることが予想されます。随時、本欄でレポートしていきたいと思います。