世界がグローバル金融危機から何も学んでいないことを示す11のチャート

 忘却は人間が持つ素晴らしい能力の一つではあるが、マーケットにおいては経験や歴史が教えてくれることも多い。短期の記憶でさえすぐにリセットされてしまうのは、マーケット参加者の多くがリセットボタンに慣れ親しんだミレニアル世代であるからなのか…。

 ゼロヘッジの記事「11 Charts Show The World Has Learned Nothing From Global Financial Crisis(世界がグローバル金融危機から何も学んでいないことを示す11のチャート)」からいくつかチャートを見ていこう。11の全てのチャートについてはオリジナルの記事を参照されたい。

 2008年の危機以降、ほとんどの国は自分たちが生み出した混乱の対応に追われた。その危機は負債によって生み出されたものであり、今後数年は負債処理が必要になるだろうという結論に達した。

 しかし実際にはその反対のことが起こった。

 誰も負債処理なんかしたくない、もちろんそれが絶対に必要で有っても。とても不快なものであり、消費は低迷し、経済成長は止まる。そしてその不快なことをする代わりに、中央銀行は危機後、更に金利を引き下げ、負債を助長する策に出た。そして世界は中国に新しい「最後の借り手」を見つけた。そしてその負債はこの10年の間に瞬く間に大きくなった。

2007年の負債総額

出所:ゼロヘッジ

2018年の負債総額

出所:セロヘッジ

 2008年までに家計の負債は米国の負債の98%達した。その後、過剰消費はある程度減少したが、新しい負債が増加した。例えば自動車ローンや学生ローン(奨学資金)は危機後に1.36兆ドルから2.73兆ドルと倍増した。

米国の家計が抱える負債総額は2007年以降増加、その伸びはほぼ学生ローンと自動車ローンによるもの

出所:ゼロヘッジ

 おそらく最も驚くべきことはBBB+、BBBあるいはBBB -の低格付けの会社(この3つの格付けは高金利を払わざるを得ないジャンク債一歩手前)は、格付けがA程度の優良会社を上回るペースで負債を拡大させている。BBB -とジャンク債の間の会社は、格付けが落ちてしまう前に意図的に負債を抱え込んで(資金調達)いるように思える。それは下のチャートを見れば明確だ。

BBB格付けの企業による負債が増えている

出所:ゼロヘッジ

 しかし、自分の成長と不況から逃れようとこの10年間、負債を拡大させている中国に比べれば米国はまだマシだろう。危機の前、中国は負債無しで自国の成長をフィナンスしていた。家計の負債は中国のGDPの18.8%程度であった。しかし今や51%まで拡大している。中国の負債総額は約700%拡大し、その新しい負債の70%が外国からの資金によるものとなっている。

中国におけるセクター別負債総額、非金融部門の企業による負債が急増している

出所:ゼロヘッジ

 もちろん中国人も負債処理をしたいが、彼らは経済成長を6%以下にすることは望んでいない。政府が中国の銀行や貸し出し規制を強化する度に成長は鈍化し、そして不本意ながら成長率を何とか保つ策に出ざるを得ない。

 中国が何かの分野で世界一になりたいという野望は結実した:それは中国が米国に代わって負債に対する不安の最大の原因となったことである。

 世界の中央銀行が総ハト派化し、どこを見回しても金融緩和の中毒状態となっている。行くところまで行くしか残された道はなく、二度と戻ることができないだろう。まさに金融政策のホテルカリフォルニア状態である。さらには、緩和を恒久化すればいいという理論(MMT)まで飛び出してきた。通常、伝統的な経済理論を超えると、そろそろ相場の終わりが近い。「困った時には中央銀行がなんとかしてくれる。もうリスクは無くなったのだ」と、市場は浮かれているが、リスクが死ぬなんてことはあり得ない。リスクは総楽観で暴発するものである。