新債券王ガンドラックが CNBC に切れる

 新債券王ジェフリー・ガンドラックが 昨年12 月 20 日のツイートで CNBC の人気コメンテーターであるジム・クレイマーを批判し、もう CNBC には出演しない旨の発言をしている。

 昨年12 月 17 日のCNBC でガンドラックが株式市場について、「米市場はさらに下落崩壊しつつあるように見える。すべて弱気相場だ」とコメントし、それをきっかけに米国株が急落した。これに腹を立てたCNBCテレビの人気コメンテーターであるジム・クレイマーが翌日の自分の番組"Mad Money"で、「債券だけやってろ!(株式市場のコメントをするな)」と言ってしまった。

 ジム・クレイマーのような<万年強気>のコメンテーターの話を聞いていても何の役にも立たない。それを聞いている一般大衆はストップロス注文を置かないので、今回のような株の急落では資金効率が死んでしまっているのである。

 FINRA(米金融業規制機構)が発表している顧客口座の純資産残高は、信用買いが多く、保証金統計は、前2回のバブルよりも、はるかに大きなレバレッジが顧客口座でかかっていると示している。今回のハイテク株の急落で、すべてを失ってしまった投資家も多いという。

 同じ株式市場を見ていても、株式市場応援団のジム・クレイマーと鋭い運用者のガンドラックでは、見えているものが全く違うのであろう。

FINRA(米金融業規制機構)が発表している顧客口座の純資産残高

出所:The Gloom, Boom & Doom 「マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート」(パンローリング)

アップルの自社株買い(日足)

 株価の急落により、アップルは自社株買いで2018年12月26日には91億ドル(約1兆円)もの含み損を抱えるに至った

出所:The Gloom, Boom & Doom 「マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート」(パンローリング)

 

相場は戦場!これからもやってくるフラッシュ・クラッシュ

 ドル円は日本市場がまだ正月休みの1月3日の朝方、流動性の枯渇していたところで104円近辺まで売られる動きとなった。筆者は12月25日以降のラジオやメルマガ等で、「2018年8月の安値である109円77銭を割り込んでくると、2018年3月安値の104円64銭の安値を試しにくる」と申し上げてきたが、さすがにこれほどわずかな時間で実現するとは想像していなかった。

 あらためてドル円の三角もちあいのチャートを見ていこう。114円辺りにあるレジスタンスラインを何度かトライしていたが、上には抜けなかったため、今度は下のサポートラインを試しに来た。これがなんとも微妙な時間帯だった。通常、日本市場は株式市場がオープンしている9時から15時くらいとされている。ところが、その日のその時間帯は、ニューヨークも日本も開いていないオセアニア市場のみであった。ドル/円の高値・安値はマザーマーケットである日本市場でつけるので、今後、また日本市場で104円台をトライする可能性が高いと見ておいた方がよいであろう。

 大局的な長期の話になるが、今後ドル/円相場が104円を割り込むと次は100円近辺を試す相場になると考えている。

ドル/円(日足)と三角もちあい

出所:石原順

 

 短時間で大きく動いてしまったため、現在のドル/円のレンジ感は105円から110円に拡がっている。しかし、冷静に見ると上値は重いと言える。ドル円の週足と価格帯別出来高で赤い線を引いたところ、104円30銭~108円60銭辺りは商いが少なく真空地帯であることがお分かり頂けるだろう。104円前半まで急落した後、109円あたりまで戻しているが、累積出来高の少ない(あまり値段がついていない)真空地帯を駆け下がって駆け上がっただけなのである。108円60銭より上のところでは、やれやれの売りが出てくるだろう。

ドル/円(週足)と価格帯別出来高

出所:楽天MT4

 

 ではこのフラッシュ・クラッシュは何が引き金となって起きたのだろうか。ニュースを読むと、アップルの売上高見通しの引き下げやISM製造業景況指数が予想以上に悪かったことが理由として挙げられているが、そんなことは後講釈だろう。

 トレーダー仲間の情報によると、ファンドなど運用会社のどこかが潰れた(倒産した)のではないかということだった。FAANGやアップル絡みで苦境に陥っているファンドが多いらしい。アップル株で損をした投資家は、その損をほかの商品で埋めようとする。そうした数社が薄商いの中で大口の注文を入れると相場が大きく動いてしまう。

 きっかけは大口の売りが出て、AI運用が下げに拍車をかけるという展開である。今回特に大きく売られたのが、日本人が好んで手がけているドル円、トルコ円、豪ドル円、ポンド円であったことから、日本の正月休み期間中にファンドが狙いを定めて仕掛けたではないかという話にもなっている。恐らくいくつかの要因が複合的に絡んでの結果であろう。

 とにかく相場で生き残るためにはストップロス注文をおくことが重要である。今回の経験を通じて、「ああ、やっぱりストップをおかないとダメだな」と思うかもしれないが、喉元過ぎればで、おそらく3日も経つとまた同じことをしている人も多いのではないだろうか。相場を事業としてやっているなら、ストップロスの損失はあらかじめ計算された原価(コスト)のようなものである。ストップロスを入れないのであれば、証拠金は全部なくなってもいい金額に留めておくというのが代案である。

 相場は戦場である。3日の相場は暗闇の中で奇襲攻撃にあってしまったようなもの。損切りをせずに残玉を長期にわたり保有しつづけていると、例外なくストップロスハンティング相場に狩られてしまう。

 昨年は10円も動かなかったドル円相場であったが、今年は年明け早々大きく動き、相当ジグザグするのではないかと思われる。ドル円はドルが売られる時の方が買われるときよりも動きが早いし、値幅も大きくなる傾向がある。トレンドフォローの投資家にとっては最高のスタートになったかもしれない。

ドル/円(日足) 順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:ADX(14)=黄・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:グリーンの期間=買いトレンド・オレンジの期間=売りトレンド
出所:楽天MT4・石原順インジケータ