年金PKOとパウエル・プットで市場は小康状態に

 ムニューシン米財務長官は昨年12月23日に米銀大手6行トップに相次いで電話し、各行の流動性状況などを確認した。これで、ファンドの運用者たちは当局が動き出すという感触を持ったという。

 案の定、12月26日のNYダウは爆上げとなった。上げ幅が1,086ドル高と、1日の上げ幅としては過去最大である。ブルームバーグやゼロヘッジの報道で、12月26日のNYダウの史上最大の上げ幅1,086ドル高は、6.6兆円を投下した年金PKOだったことが判明している。これはPPT(金融市場に関するワーキンググループ)による年金を使った株価操作ではないかとの観測が出ている。

劇的な米株反転、年金基金が四半期末の大規模調整で6.6兆円投下か
(ブルームバーグ 2018年12月29日)

 27日の米株式相場は取引終盤プラスに転じ、日中安値からの回復の大きさが2010年以来最大となった。投資家らはこの急反転の解明に努めているが、少なくとも1人のアナリストは、12月に入ってからの急落を受けて年金基金が株式を大量に買い入れたためだと分析している。

 S&P500種株価指数は一時2.8%安まで下げた後、終盤にかけて大きく戻し、反転は8年ぶりの大きさとなった。この急激な方向転換は、今月600億ドル(約6兆6,200億円)の株式購入資金を抱える年金基金が、四半期末を控えて持ち高を調整したことを反映した可能性があると、ウェルズ・ファーゴのプラビット・チンタウォンバニッチ氏は分析した。600億ドルというのは過去にあまり例を見ない規模だという。

 そして、1月4日にはパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長とイエレン、バーナンキ両元FRB議長との討論会が開催された。パウエルFRB議長は、「とりわけインフレ指標がこれまで落ち着いている中で、われわれは経済動向を注視しつつ、忍耐強く当たる」、「利上げは既定路線ではない」、「必要に応じて常に政策スタンスを大幅に変更する用意がある」と述べ、2016年当時と同様、金融引き締めの停止もあり得るとの考えを示唆した。また、辞任観測も出ていたパウエルFRB議長は、「仮にトランプ大統領から辞任を求められても辞めるつもりはない。トランプ氏と会談する予定はない」と発言した。この討論会を好感し、この日のNYダウは746ドル高で取引を終えた。

 パウエルFRB議長とリフレ派イエレン、バーナンキ両元FRB議長の討論会は、市場を安心させるためのパフォーマンスで、これがPKO第二弾である。

 新債券王のジェフリー・ガンドラックは、「実利主義のパウエルからパウエル・プットへと変化し、市場はそれ以来パーティ状態だ」と、ツイートした。だが、FRB議長が「株価をみながら政策をおこなっている」と市場から思われると、今後、FRBは利上げ停止や資産売却停止、あるいは利下げの催促相場に直面することになるだろう。

NYダウ(日足)レンジブレイクの売買シグナルとトレーリングストップライン(蛍光緑)

出所:石原順

NYダウ(日足) 逆張りの売買シグナル △買いシグナル・♢売りシグナル

出所:石原順

現在の米国株の下落は、FRBや主要中央銀行が量的緩和から量的引き締めに動いたことが原因

 金融市場はFRB議長のパウエル氏がタカ派なのかハト派なのかを思いあぐねているようだ。彼は1カ月交代でタカ派からハト派に転換すると言われている。元々、経済学者ではないパウエルFRB議長は市場に振らされやすいが、彼が<テイラー・ルールに基づいた金融政策>を重視している旨の発言をしていることを考えれば、基本的には利上げをしたいのだろう。

 問題は、「FRBは株が上がれば利上げをのろのろと実行し、株価下がれば利上げを停止する」という小学生レベルの金融政策を続けていけるのか否かである。利上げをしないとジェフリー・ガンドラックが指摘する<インフレ(スタグフレーション)懸念>が浮上し、利上げをするとスタンリー・ドラッケンミラーが指摘する<デフレ的な景気後退や株の下落を招来する>という袋小路にFRBは追い詰められている。

 FRBは<トランプ大統領の過度な財政刺激による金利上昇と資産価格の調整>と<資産バブルの破裂(株安)による日本型デフレ不況>という二つの恐怖におびえながら、今後の政策を続けなければならない。

 現在の米国株の下落は、FRBや主要中央銀行が量的緩和から量的引き締めに動いたことが原因であって、それ以外の理由はない。CAPE(シラーPER)をみればわかるが、米国株は過去の平均値に比べて4割も割高な水準まで買われていたのだ。今の株の下落は、量的緩和でバブル的に買われすぎた株が、量的引き締めによって下落しているだけである。それがマーケットの本質であるが、いつの世も枝葉のようなどうでもいいマーケット解説ばかりが溢れている。

主要中央銀行は量的緩和から量的引き締めへ

出所:The Gloom, Boom & Doom 「マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート」(パンローリング)

主要中央銀行の総資産の推移

出所:ヤルデニリサーチ

連邦準備銀行の総資産 

 FRBの資産売却と株価は連動する

出所:セントルイス地区連銀

CAPE(シラーPER)の推移

 昨年、シラーPERは平均値よりも40%割高水準まで上昇

新債券王ガンドラックが CNBC に切れる

 新債券王ジェフリー・ガンドラックが 昨年12 月 20 日のツイートで CNBC の人気コメンテーターであるジム・クレイマーを批判し、もう CNBC には出演しない旨の発言をしている。

 昨年12 月 17 日のCNBC でガンドラックが株式市場について、「米市場はさらに下落崩壊しつつあるように見える。すべて弱気相場だ」とコメントし、それをきっかけに米国株が急落した。これに腹を立てたCNBCテレビの人気コメンテーターであるジム・クレイマーが翌日の自分の番組"Mad Money"で、「債券だけやってろ!(株式市場のコメントをするな)」と言ってしまった。

 ジム・クレイマーのような<万年強気>のコメンテーターの話を聞いていても何の役にも立たない。それを聞いている一般大衆はストップロス注文を置かないので、今回のような株の急落では資金効率が死んでしまっているのである。

 FINRA(米金融業規制機構)が発表している顧客口座の純資産残高は、信用買いが多く、保証金統計は、前2回のバブルよりも、はるかに大きなレバレッジが顧客口座でかかっていると示している。今回のハイテク株の急落で、すべてを失ってしまった投資家も多いという。

 同じ株式市場を見ていても、株式市場応援団のジム・クレイマーと鋭い運用者のガンドラックでは、見えているものが全く違うのであろう。

FINRA(米金融業規制機構)が発表している顧客口座の純資産残高

出所:The Gloom, Boom & Doom 「マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート」(パンローリング)

アップルの自社株買い(日足)

 株価の急落により、アップルは自社株買いで2018年12月26日には91億ドル(約1兆円)もの含み損を抱えるに至った

出所:The Gloom, Boom & Doom 「マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート」(パンローリング)

 

相場は戦場!これからもやってくるフラッシュ・クラッシュ

 ドル円は日本市場がまだ正月休みの1月3日の朝方、流動性の枯渇していたところで104円近辺まで売られる動きとなった。筆者は12月25日以降のラジオやメルマガ等で、「2018年8月の安値である109円77銭を割り込んでくると、2018年3月安値の104円64銭の安値を試しにくる」と申し上げてきたが、さすがにこれほどわずかな時間で実現するとは想像していなかった。

 あらためてドル円の三角もちあいのチャートを見ていこう。114円辺りにあるレジスタンスラインを何度かトライしていたが、上には抜けなかったため、今度は下のサポートラインを試しに来た。これがなんとも微妙な時間帯だった。通常、日本市場は株式市場がオープンしている9時から15時くらいとされている。ところが、その日のその時間帯は、ニューヨークも日本も開いていないオセアニア市場のみであった。ドル/円の高値・安値はマザーマーケットである日本市場でつけるので、今後、また日本市場で104円台をトライする可能性が高いと見ておいた方がよいであろう。

 大局的な長期の話になるが、今後ドル/円相場が104円を割り込むと次は100円近辺を試す相場になると考えている。

ドル/円(日足)と三角もちあい

出所:石原順

 

 短時間で大きく動いてしまったため、現在のドル/円のレンジ感は105円から110円に拡がっている。しかし、冷静に見ると上値は重いと言える。ドル円の週足と価格帯別出来高で赤い線を引いたところ、104円30銭~108円60銭辺りは商いが少なく真空地帯であることがお分かり頂けるだろう。104円前半まで急落した後、109円あたりまで戻しているが、累積出来高の少ない(あまり値段がついていない)真空地帯を駆け下がって駆け上がっただけなのである。108円60銭より上のところでは、やれやれの売りが出てくるだろう。

ドル/円(週足)と価格帯別出来高

出所:楽天MT4

 

 ではこのフラッシュ・クラッシュは何が引き金となって起きたのだろうか。ニュースを読むと、アップルの売上高見通しの引き下げやISM製造業景況指数が予想以上に悪かったことが理由として挙げられているが、そんなことは後講釈だろう。

 トレーダー仲間の情報によると、ファンドなど運用会社のどこかが潰れた(倒産した)のではないかということだった。FAANGやアップル絡みで苦境に陥っているファンドが多いらしい。アップル株で損をした投資家は、その損をほかの商品で埋めようとする。そうした数社が薄商いの中で大口の注文を入れると相場が大きく動いてしまう。

 きっかけは大口の売りが出て、AI運用が下げに拍車をかけるという展開である。今回特に大きく売られたのが、日本人が好んで手がけているドル円、トルコ円、豪ドル円、ポンド円であったことから、日本の正月休み期間中にファンドが狙いを定めて仕掛けたではないかという話にもなっている。恐らくいくつかの要因が複合的に絡んでの結果であろう。

 とにかく相場で生き残るためにはストップロス注文をおくことが重要である。今回の経験を通じて、「ああ、やっぱりストップをおかないとダメだな」と思うかもしれないが、喉元過ぎればで、おそらく3日も経つとまた同じことをしている人も多いのではないだろうか。相場を事業としてやっているなら、ストップロスの損失はあらかじめ計算された原価(コスト)のようなものである。ストップロスを入れないのであれば、証拠金は全部なくなってもいい金額に留めておくというのが代案である。

 相場は戦場である。3日の相場は暗闇の中で奇襲攻撃にあってしまったようなもの。損切りをせずに残玉を長期にわたり保有しつづけていると、例外なくストップロスハンティング相場に狩られてしまう。

 昨年は10円も動かなかったドル円相場であったが、今年は年明け早々大きく動き、相当ジグザグするのではないかと思われる。ドル円はドルが売られる時の方が買われるときよりも動きが早いし、値幅も大きくなる傾向がある。トレンドフォローの投資家にとっては最高のスタートになったかもしれない。

ドル/円(日足) 順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:ADX(14)=黄・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:グリーンの期間=買いトレンド・オレンジの期間=売りトレンド
出所:楽天MT4・石原順インジケータ

日経平均は5年移動平均線の攻防中

 ドル/円のフラッシュ・クラッシュ的な下落で日経平均も売られた。日経平均の月足は現在60カ月(5年)移動平均線と上昇支持線(トレンドライン)の攻防となっている。アベノミクス相場の参加者のコストを割り込んでくると、上値は重くなるだろう。

 下の日経平均の月足チャートのエリオット波動のカウントは、私の周辺のファンド運用者が見ているものである。エリオットの波動カウントはカウントする人によって違うので、様々な解釈が存在することを最初に断わっておく。

日経平均(月足) 60カ月移動平均線と波動カウント

出所:石原順

エリオット波動の基本原理と波の個性

出所:「エリオット波動入門」ロバート・プレクター著(パンローリング)

 

 相場の1波や3波の上げ相場で売り損ねても、その後の上げでお迎えが来てポジションを利食いすることは可能であろう。しかし、5波のトップ(天井)は大天井であり、その後のA-B-C波の急激な下げに巻き込まれる危険性が高くなる。

 相場に最後までしがみついてはいけない。日本株の最後の買い方となっているのが、日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)であるが、GPIFは2018年10~12月の資産運用で14兆円を超える損失を発生させた可能性があると報道されている。

 この日経平均の波動カウントは間違っているかもしれない。しかし、日経平均は5波の上げが終わり、上げきったようにもみえる。波動カウントが合っているかどうかはともかく、「とりあえず危ないところは入らない(買わない)」というのが筆者の相場信条である。

 

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1月12日(土)開催 楽天証券新春講演会FXブースセミナーについて

 

1月12日(土)楽天証券新春講演会のお知らせ

 FXブースにて以下のスケジュールでブースセミナーを開催いたします。新春講演会に参加される方は是非お立ち寄りください。

タイムスケジュール(予定)

11時35分~11時55分
「2019年の原油相場見通し」
講師 吉田 哲(楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト)

 

12時00分~12時45分
「2019年前半の為替相場見通し」
講師 石原 順氏(現役ファンドマネージャー)

 

14時35分~14時55分
「マーケットスピード II のココがすごい!」
講師 長谷川 拓実(楽天証券 株式・デリバティブ企画部)