長期金利上昇で切り下がるS&P500の想定レンジ

 前述した通り、長期金利の上昇はバリュエーション面で株価の重しとなっています。市場は、債券金利の落ち着きと企業業績を巡る安堵(あんど)感(堅調決算や業績向上を巡る業績ガイダンスの発表)を必要としていると考えられます。ご参考までに、著者が将来の株価(S&P500)動向を試算する上で参考にしている「S&P500の想定レンジ」を図表3でご紹介します。

 これは、株式リスクプレミアム(予想PERの逆数-長期金利)を試算した上で、「ベストシナリオの予想PER(長期金利+株式リスクプレミアム-過去1年の標準偏差(σ))」および「リスクシナリオの予想PER(長期金利+株式リスクプレミアム+過去1年の標準偏差(σ))」それぞれから算出したS&P500の「想定レンジ」を試算するモデルです。

 基本的にレンジが右肩上がりだったのは、S&P500ベースの予想EPSが長期で成長・拡大してきたことを示しています。S&P500は上下しながらも、想定したレンジ内で推移してきたことが分かります。

 結論を言えば、本モデルに基づいたS&P500の当面のベストシナリオ(上値余地)は4,812程度、リスクシナリオ(下値余地)は3,919程度と試算できます。直近では長期金利の上昇を受けて想定レンジがやや切り下がったことが分かります。

 ただ、今後基調としてのインフレや景気減速を反映し長期金利が低下する可能性がある一方、来年の業績拡大見通しを織り込んでいくと想定するなら、S&P500は今年末までに4,600程度、2024年の中ごろまでに4,800程度(2022年初に付けた過去最高値を更新する)復調傾向も視野に入ってくると考えています。

 長期金利が上昇し市場心理が過度に悪化して株価が軟調となっている現在のような局面では、押し目買いや積み増し買いが長期的資産形成に寄与すると思われます。

<図表3>「S&P500の想定レンジ」を試算してみる

(出所) Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2009年初~2023年9月22日)

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