ウクライナ危機鎮静化こそが不安解消の決定打

 原油価格が下落していても、世界には、バイデン氏の不支持が低下していない、天然ガスと石炭の価格が高止まりしているため、電力価格の高騰が続く懸念がある、食糧価格が高止まりしている、という複数の大きな不安があると述べました。

 原油価格下落がインフレを沈静化させている。株式市場をはじめとしたさまざまな市場は最悪期を脱した、という趣旨の報道を目にしますが、上述した複数の不安が存在しているため、両手放しで楽観的になることはできないでしょう。

 ではどうなれば、こうした不安は解消されるのでしょうか。原油価格がさらに下落、天然ガスと石炭、食糧価格が大幅に下落するためには、どのような条件が必要か、という問いです。

 以下のグラフが示すとおり、ウクライナ危機が勃発する前の1月に比べてまだ価格が高いのは同危機に直接的に関わるエネルギーと食糧です。バイデン氏の不支持高止まり以外の二つの不安は、ウクライナ危機が沈静化することで解消すると考えられます。

図:主要銘柄の騰落率(2022年1月と7月を比較)

出所:世界銀行のデータより筆者作成

ウクライナ危機の早期鎮静化は難しい!?

「純粋化すればするほど、不安定化する」と述べたのは、日本の著名な経済学者である岩井克人氏です。これは同氏が資本主義の本質について語った際に用いたフレーズです。このフレーズをヒントに、ウクライナ危機のきっかけを考えます。

 かつて世界各地で、「物資や土地の奪い合い」が起きていました。やがて争いの場は、目に見えにくい「力の大きさを競うこと」に移りました(力=経済、技術、政治など)。争いの場が、点や線で描きやすい「物理」から、面で表現しやすい「人文」に移行したのです(争いの場の一度目の移行)。

 一度目の移行は1970年代から2000年代前半に起きたと、筆者はみています。そして、長い時間をかけて起きたこの移行の最中に起きたのが「純粋化の進行」です。純粋化の具体例は、世界全体を網羅する法律や枠組みの整備が進み、各種社会が洗練された状態になったことです。

 確かに純粋化は世界を良くしました。しかし、すでに純粋化はピークを越え、今は「不安定化」が始まっています。国連が機能不全に陥っていることが最たる例です。

「不安定化」が始まったタイミングは、争いの主流が「気候」や「人権」といった、立体にするとイメージしやすい「思想」への移行が始まったタイミングと大きく異なることはありませんでした。2010年ごろだったと考えます(争いの場の二度目の移行)。

 なぜ「不安定化」が、争いの主流が「気候」や「人権」という「思想」に移るきっかけになるのでしょうか。純粋化が極限に達し(洗練された規制の網が世界中に行きわたり)、資本主義陣営が成長の余地(=争いの場)を見つけにくくなるためです。

 資本主義社会は、いかなる状態であっても、成長しなければなりません。そこで、資本主義社会は、人為的に争いの場を生み出すことにしたのです(面の限界を立体で補う)。そこで生まれたテーマが、「気候」と「人権」です。

「気候」や「人権」は一見すると世界共通の課題に見えますが、そこにメスを入れることで強く反発する人がいます。産油国と独裁国家です。ウクライナ危機は、産油国であり独裁色を持つロシアが起こしました。

「純粋化すればするほど、不安定化する」をもとに考えれば、ある意味、ウクライナ危機は起こるべくして起きたと言えるでしょう。同危機は、純粋化が極限に達し、不安定化がはじまった資本主義陣営による余地創造がきっかけで起きた可能性があるわけです。

 以前の「まるで世界大戦。戦場は「原油市場」」で述べた、ロシアがもともと、資本主義を攻撃する機会をうかがっていた可能性がある点と合わせて考えれば、さらに、資本主義の「不安定化」が軍事侵攻のきっかけとなった可能性が高まります。

 このような経緯の上で起きているウクライナ危機を、早期に鎮静化させることはできるのでしょうか。西側の主要国の国民の多くが、目下、ウクライナ危機よりも物価高(インフレ)を気にしていることも、早期の鎮静化を難しくしていると言えるでしょう。

 金利、税率、為替には、熱すぎたり、冷えすぎたりする事象(景気、政策、外交など)を、程よい状態に戻す「調整弁」の役割がありますが、それらはあくまでも人為的な調整を助ける手段に過ぎず、大局的なトレンドを変えるための手段にはなり得ません。

 その意味では、金融政策で、ウクライナ危機をきっかけに高止まりする商品(コモディティ)の価格を下落させようとすることは、最初から無理があると言えるでしょう。

 早期にウクライナ危機を鎮静化できない場合、何が起きるのでしょうか。上記で示したウクライナ危機関連銘柄(エネルギーと食糧)の高止まり継続でしょう。