大衆迎合、ESG神聖化が戦争の遠因!?

 原油市場が「戦場」化した理由の一つである「インフレ」は、なぜ起きたのでしょうか。ロシアがウクライナに攻め入って供給制約のきっかけをつくったことが主因、とされています。では、ウクライナ危機は、なぜ起きたのでしょうか。

1.ロシアは西側を攻撃する術(すべ)を知っていた

 およそ100年前、ロシア革命(1917年)を主導したウラジーミル・レーニンは、「資本主義を破壊する最善の策は、通貨を堕落させること」と語ったとされています。通貨の堕落、言い換えればインフレです。資本主義を是とする西側を攻撃するのに効果的な方法を、レーニンが説いていたわけです。

2.ロシアで反西側感情が強まっていた

 2020年は「脱炭素」元年だったと筆者は考えています。化石燃料を否定してトランプ氏を激しく批判したバイデン氏が米大統領選挙に勝利した年です。翌年、米国はパリ協定に復帰し、それをきっかけに西側では化石燃料批判の大合唱がおきました。

 この大合唱を、ロシアをはじめとした産油国はどのような気持ちで聴いていたのでしょうか。化石燃料批判は、産油国批判に他なりません。2020年はロシアの反西側感情に、一気に火が付いた年だった可能性があります。

3.西側のリーダーは断固たる措置を講じることができない

 西側のリーダーは、大衆迎合にならざるを得ません。選挙が定期的に訪れるためです。(直接・間接問わず)リーダーを選ぶ大衆は「モノ言う株主」ならぬ「モノ言う大衆」と化していると、感じることがあります。

 争いを起こしたり、人を殺(あや)めたりする人・国は例外なく悪、物価高(インフレ)は受け入れられない、自分の生活は平穏でありたい、ESGを順守して気候変動に気を配ってくれる美しい国や企業は善。こうした環境を提供してくれるリーダーが良いリーダー。

 豊かで自由な西側諸国ほど、このような大衆を抱えている傾向があります。西側のリーダーたちは選挙で勝つために、こうした、ある意味モノ言う大衆に、寄り添わなければなりません。寄り添えば寄り添うほど、凶悪な存在に対して断固たる措置を講じにくくなります。

 仮に今、米国を中心とした西側の多国籍軍がロシアを攻撃した場合、西側のリーダーたちは、モノ言う大衆たちの非難の豪雨に打たれるでしょう。これは、西側が断固たる措置を講じることができない一因であり、ロシアにとって都合の良い真実と言えるでしょう。

4.「インフレ」を起こしやすい素地が出来上がっていた

 リーマンショックで傷んだ経済を立て直すべく、西側の主要国は2009年から2014年ごろまで断続的に金融緩和を行いました。その後一時は金融引き締めに転じたものの、2020年に新型コロナがパンデミック化したことを機に、再び大規模な金融緩和を行いました。

 こうした金融緩和によって、世界全体でマネーがじゃぶじゃぶな状態におちいりました。高インフレが起きる素地は、こうしてできあがりました。レーニンが説いた西側を攻撃する術を、実践しやすくなったと言えます。

図:ウクライナ危機が発生するまでの経緯

出所:筆者作成