顕在化すると金相場の上昇要因に。原油相場反発のための人為的な中東情勢悪化

 先述のとおり、原油価格が一時マイナス圏まで急落したことは、通貨市場を不安定にし、さまざまな市場に心理的不安をばらまき、株式市場が期待を先取りすることを難しくしたと、言えると思います(いずれも金相場の上昇要因)。

 マイナス圏を脱した後も、原油相場は年初の3分の1程度で推移しているため、消費が回復するムードが出ない、米シェール企業の社債市場が不安定のまま、エクソンモービルやサウジアラムコなどの世界のエネルギー企業の株価が不安定のまま、産油国が資産を売却する不安が絶えないなど、原油価格の低迷は、広範囲にたくさんの懸念を振りまいています。

 一方、石油製品の消費者側から見て、この原油価格の低迷は、どのように映るでしょうか。

図:米国内のガソリン小売価格 単位:ドル/ガロン

出所:EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 当然のことながら、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために移動制限・外出自粛などが発動・要請されているため、ガソリンの消費は急減しています。原油価格の低迷と消費急減のため、米国のガソリン小売価格は上記のとおり、大幅下落となっています。

 移動をすることはないため、そもそも消費することもないのですが、仮に、ガソリンを購入するとなれば、現在の価格は、ここ数年間の中で、消費者に最も有利な価格と言えます。トランプ氏が大統領に就任した2017年1月以降、現在の米国国内のガソリン価格は最も安い水準にあります。

 このため、原油相場が大暴騰しない限り、11月の大統領選挙で投票を行う多くの有権者から、ガソリン価格に関する不満の声が上がることは、考えにくいとみられます。

 一般の消費者から不満が上がりにくいことを逆手に取り、不満が出ない程度に、トランプ氏は、今後、エネルギー産業に携わる人々から支持を取り付ける(石油票を獲得する)ことを目標に、原油価格を“緩やかに”引き上げる策を講じる可能性があります。

 先週、トランプ大統領は、イランが海上で米国船に嫌がらせをした場合、撃沈して破壊するよう米海軍に指示した、とツイートしました。新型コロナウイルス感染拡大への対応をめぐり、厳しい状況に追い込まれている中、視点をずらす目的があったと報じられています。

 この件について筆者は、敵対心を向けた相手が中東の産油国のイランだったことを考えれば、新型コロナウイルス感染拡大への対応から米国国民の目をそらしたり、米国国民の愛国心を高揚させてリーダーシップを発揮したりすること以外に、低迷する原油価格の“緩やかな”回復、そしてそれによる石油票の獲得、を企図していたのではないか、と考えています。

 この行為は、中東情勢を緊迫化させ有事のムードを強める要因です。金相場にさらなる上昇圧力をかける行為と言えます。