金価格、他の主要銘柄を横目に上昇。ドル建て、円建て、そろって節目へトライ。
週明けの4月27日(月)午前時点(日本時間)で、NY金先物(期近)は1トロイオンスあたり1,720ドル近辺、東京金先物(期先)は1グラムあたり5,939円付近で推移し、ともに、記録的な高値水準を維持しています。
先週の動向については、次のレポートで、株価指数、通貨、コモディティ(商品)、暗号資産といったジャンルを横断した合計23の銘柄の中で、金(ドル建て)の上昇率が最も高くなったことについて書きました。本記事では、今後の金の動向と、背景にある原油暴落について解説していきます。
国内外の金価格は、以下のとおり、NY金は1,800ドル、東京金は6,000円という、ともに節目にトライする、重要な局面にあります。
図:NY金先物(中心限月 日足 終値)、東京金先物(期先 日足 終値)の価格推移
年初来、NY金、東京金ともに9%程度上昇しています。非常に勢いのある状況になっており、目先、これらの節目を超える期待が高まっています。
以下の通り、長期的に見れば、NY金が1,800ドルに到達すれば、2011年8月につけた歴史的高値の1,820ドル台(月足の終値ベース)にさらに接近する、東京金が6,000円に到達すれば、歴史的高値をさらに更新することになります。
図:NY金先物(期近 月足 終値)、東京金先物(期先 月足 終値)の価格推移
長期的な値動きと主な変動要因がわかるロングチャートはこちらで確認できます。
原油の異常価格が起爆剤。“代替資産”“代替通貨”“有事”の3つがそろった
先々週まで、金価格が上昇したのは、“代替通貨”、“有事のムード”、という金価格の変動要因の2つのテーマで、上昇圧力がかかったためだと考えています。この点については、先週のレポート「金が1,800ドルを超える条件、OPEC減産でも原油価格が上昇しない理由」で述べました。
そして先週の上昇は、これら2つに“代替資産”が加わって起きたと考えています。まずは目先、1,800ドルを現実的に超える可能性が高まってきていると、感じています。
このように感じるのは、先週、NY原油先物の期近限月が、一時マイナス圏入りしたためです。この、“NY原油先物価格の一時マイナス”が金相場に与える影響について、以下の図のように考えています。
図:足元の金相場の環境(イメージ)
NY原油先物価格が一時、マイナス圏入りしたことは、もともとあった“代替通貨”と“有事のムード”による物色をさらに強め、それに加えて“代替資産”による物色が進むきっかけが生まれた、と言えると思います。
原油価格は一時的にマイナス価格となる以前と、現在を比べれば、金相場を取り巻く環境は大きく変化していると思います。足元、複数のテーマからの圧力が強まっていると見られ、金(ゴールド)価格は、目先、上値を伸ばす、具体的には先述の節目、NY金は1,800ドル、東京金は6,000円を超えると、筆者は考えています。
顕在化すると金相場の上昇要因に。原油相場反発のための人為的な中東情勢悪化
先述のとおり、原油価格が一時マイナス圏まで急落したことは、通貨市場を不安定にし、さまざまな市場に心理的不安をばらまき、株式市場が期待を先取りすることを難しくしたと、言えると思います(いずれも金相場の上昇要因)。
マイナス圏を脱した後も、原油相場は年初の3分の1程度で推移しているため、消費が回復するムードが出ない、米シェール企業の社債市場が不安定のまま、エクソンモービルやサウジアラムコなどの世界のエネルギー企業の株価が不安定のまま、産油国が資産を売却する不安が絶えないなど、原油価格の低迷は、広範囲にたくさんの懸念を振りまいています。
一方、石油製品の消費者側から見て、この原油価格の低迷は、どのように映るでしょうか。
図:米国内のガソリン小売価格 単位:ドル/ガロン
当然のことながら、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために移動制限・外出自粛などが発動・要請されているため、ガソリンの消費は急減しています。原油価格の低迷と消費急減のため、米国のガソリン小売価格は上記のとおり、大幅下落となっています。
移動をすることはないため、そもそも消費することもないのですが、仮に、ガソリンを購入するとなれば、現在の価格は、ここ数年間の中で、消費者に最も有利な価格と言えます。トランプ氏が大統領に就任した2017年1月以降、現在の米国国内のガソリン価格は最も安い水準にあります。
このため、原油相場が大暴騰しない限り、11月の大統領選挙で投票を行う多くの有権者から、ガソリン価格に関する不満の声が上がることは、考えにくいとみられます。
一般の消費者から不満が上がりにくいことを逆手に取り、不満が出ない程度に、トランプ氏は、今後、エネルギー産業に携わる人々から支持を取り付ける(石油票を獲得する)ことを目標に、原油価格を“緩やかに”引き上げる策を講じる可能性があります。
先週、トランプ大統領は、イランが海上で米国船に嫌がらせをした場合、撃沈して破壊するよう米海軍に指示した、とツイートしました。新型コロナウイルス感染拡大への対応をめぐり、厳しい状況に追い込まれている中、視点をずらす目的があったと報じられています。
この件について筆者は、敵対心を向けた相手が中東の産油国のイランだったことを考えれば、新型コロナウイルス感染拡大への対応から米国国民の目をそらしたり、米国国民の愛国心を高揚させてリーダーシップを発揮したりすること以外に、低迷する原油価格の“緩やかな”回復、そしてそれによる石油票の獲得、を企図していたのではないか、と考えています。
この行為は、中東情勢を緊迫化させ有事のムードを強める要因です。金相場にさらなる上昇圧力をかける行為と言えます。
現在のNY金は“1,900ドル”を超えるポテンシャルがある!?
NY金が1,900ドルに達するかどうかを考えることは時期尚早でしょうか? 筆者は一概にそう言えないと考えています。
月間の高値で2011年8月と9月に瞬間的に1,900ドルを超えたことがありました。“有事のムード”“代替資産”“代替通貨”の3つのテーマについて、2011年秋と現在を比較してみます。
図:2011年秋と2020年春の金相場の比較
瞬間的な高値1,920ドルをつけた2011年9月前後と、現在を比べてみると、ともに“有事のムード”と、株価の下落・不安定さによる“代替資産”による物色の可能性があることがわかります。“代替通貨”については、2011年9月はちょうど*QE2とQE3の間の期間で、米国では金融緩和が行われていませんでした。一方現在は、大規模な欧米諸国による金融緩和が行われています(2011年は金融緩和の追い風なし、現在はあり)。
*QE=量的緩和政策
2011年9月は、金融緩和の端境期だったことで株価が下落し“代替資産”の側面で強く物色され、足元のアラブの春による有事のムードが加わり、1,900ドルに達したと考えられます。
先述のとおり、現在は、有事のムード、代替資産、代替通貨、いずれも材料が存在し、かつ原油相場の異常なまでの急落がこれらに拍車をかけているとみられ、2011年よりも現在の方が材料はそろっていると考えられます。
また、今後の金相場が今後も上値を伸ばすかどうかを考える上で、足元、公表されている先進国の成長率の予想(IMF公表)と先進国の石油消費量の予想(EIA公表)に注目しています。
図:先進国の成長率と石油消費量の予想 (2019年1Qを100として指数化)
IMFが示した先進国の成長率予想とEIAが示した先進国の石油消費量の予想は、ともに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で急激な落ち込みの“最悪期”は、2020年の第2四半期、つまり、現在としています。今我慢すれば、年後半には、経済は回復し、それにつれて石油の消費量も回復する、というわけです。
仮に、この予想が外れた場合、幅広い市場で強い悲観論が生じる可能性があります。すでに、このような予想をもとに“アフターコロナ”と銘打って、新型コロナウイルスの世界的なまん延が終息する期待を先取りするような楽観論がありますが、そうならなかった場合の失望は、むしろ年後半に終息する期待を抱かなかった時よりも大きくなると筆者は思います。
この話は、金相場に大きな影響を与えると考えられます。期待が大きかった分、実際にそうならなかった時の失望は大きく、このような強い失望は強い不安と懸念を生み、大きな有事のムードを生み出す可能性があります。
原油の異常な値下げで“有事のムード”“代替通貨”“代替資産”は、ある意味強化された状態にあり、その上で、トランプ氏が石油票獲得のために中東情勢を悪化させ、なおかつ、期待が失望に変わった(アフターコロナが実現しなかった、遠のいた)時、金価格は、1,900ドルを超えていてもおかしくはないと、筆者は考えています。
[参考]具体的な貴金属関連の投資商品
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。