貿易戦争の終点はプラザ合意2.0

 筆者は以前より、貿易戦争は最終的にプラザ合意2.0に至ると指摘しているが、そこにたどり着くにはまだ時間を要するだろう。しかし、トランプ大統領は以下の3つの戦略を着々と進めていくだろう。

  1. グローバル企業の生産体制を破壊し、生産拠点を米国に戻す(米国人の雇用の確保)。
  2. 同盟国から米軍を撤退させ、軍事的に独立させる。その過程で軍事兵器を売り込み、貿易赤字を縮小させる(トランプ大統領は戦争するふりをするが、実際に戦争はしない)。
  3. 貿易戦争(関税・数量規制)の終着点は貿易不均衡の是正と米国の赤字解消であり、最終的には「プラザ合意2.0」が発動される可能性が高い。

ドル/円(月足) 為替の歴史は政治の歴史

出所:石原順

 貿易戦争で関税を引き上げたり、数量規制をしたりして散々騒ぎ立てておいて、それでも貿易赤字は減らないということを示した上で、もしトランプ大統領が再選を果たした場合、2期目にかけて通貨の切り下げを行ってくる可能性がある。もちろん、トランプ大統領に対する抵抗勢力も存在するため、一朝一夕にはいかない。しかし、もしドルの値段が半分になれば、抱えている借金の額も半分になる。それが米国の最も効率的な赤字の解消法である。

 トランプ大統領にとっては、グローバルのサプライチェーンがどうなろうが知ったことではない。企業の生産拠点を米国に回帰させ、雇用を米国に戻すという主張は以前から一貫している。

 同盟国に展開している軍隊も引き上げ、その過程で同盟国に米国の兵器を売り込めば、経常赤字の縮小にもつながり一石二鳥である。中国はプラザ合意によって急激な円高になった日本の轍を踏まないよう警戒を高めているが、中国は日本に比べるとタフな相手であることは間違いないだろう。

 中国はプラザ合意2.0の発動を恐れているという。日本の二の舞を避けたいからだ。それに対抗する中国の最終的な手段はレアアースなどではなく、米国債売りである。

【中国の経済学者は米国の圧力の下で日本は円高を押して貿易緊張を解決しようとした1985年のプラザ合意の再現を恐れている。プラザ合意によって日米の緊張は沈静化したものの、多くの中国人エコノミストは、耐え難い価格によって20年以上停滞した日本の成長を思い起こしている。

同じようなことが必ずしも起こるとは限らない。日本は安全保障を米国に依存しており、その影響から逃れられなかった。また、プラザ合意には英国、フランス、そして西ドイツも含まれていた。

ハーバード大学のJeffrey Frankelはそれを「国際的な政策協調の最高水準点」と指摘しているが、これはドナルド・トランプ大統領のトレードマークではない。

実体も異なっていた。5カ国(米国、英国、フランス、西ドイツ、日本)はドルの切り下げに合意し、通貨市場に介入してそれを実現すると発表した。

1年も経たないうちに円はドルに対して50%近く急上昇した。当時とは対照的に、通貨の問題は現在の米中の争いのほんの一部に過ぎない。】

出所:エコノミスト 2019年5月23日  As the trade war heats up, China looks to Japan’s past for lessons  貿易戦争が激化するにつれ、日本の過去から教訓を学ぶ中国

 貿易戦争で米国が有利だとか、いや実は中国が有利だとか、さまざまな報道が出ているが、歴史を振り返ると貿易戦争に勝者はいない。つまり、米国も中国も、そして日本も共倒れになるのである。