金融抑圧政策(インフレ率以下に国債の金利を下げる政策)と銀行の悲鳴

 物価目標2%が達成されていないのに、なぜ日銀は政策を変更するのか?日銀金融政策変更観測が浮上した背景には、「長短スプレッドがなく金融機関は飯が食えなくなっている」という副作用が看過できなくなってきたからだ。ETFの買い入れ対象を日経225型からTOPIX型に変えたのは225型を買い過ぎて、買う銘柄がなくなったからである。

 現在の世界好景気の裏側にあるのは膨大な債務である。膨大な債務を簡単に解消するにはハイパーインフレしかないが、そんなことはできないので金融抑圧政策(インフレ率以下に国債の金利を下げる政策)が行われている。政府の借金圧縮(いわゆる財政健全化)のための「増税」や「歳出削減」は、国民やマスコミから文句が出やすい。一方で、「金融抑圧」は目に見えない政策なので、実際は大変な不利益を被っている国民に十分理解されない。

 2%のインフレが10年も続けば、政府の債務は実質20%軽減される。だが、多くの国民はそれを認識しづらい。いわゆる「茹でカエル」状態だ。長期金利が上がらないのは謎と言われているが、多くの借金を抱える国が「インフレ率より長期金利を下げたい」という「金融抑圧の誘惑」にかられるのは当然の帰結なのかもしれない。

 日本は「金融抑圧」によって国民の富が政府に移転していく。早い話が、国民が貧乏(実質資産が目減り)になる一方で、政府は債務を実質的に圧縮していくのである。金利が物価上昇率より低いマイナス金利の状況になると、個人は預貯金で運用していても、実質の資産は目減りしていく。

 そして、長い「金融抑圧」政策の結果、とうとう銀行もやっていけなくなってきたというのが、今回の日銀金融政策変更観測の裏事情である。

 日銀は「見せかけの金融緩和」を続けながら、事実上のデフレ政策を続けているのだ。なぜなら、対GDP(国内総生産)比で類をみない債務残高を抱える日本は、インフレになったら(金利が上がったら)、困るからである。

 物価目標2%を達成するまでは、日銀は国債を買う(金利上昇を抑える)ことが出来る。日銀としては、現実に日本経済がインフレになったら困るのである。金融抑圧政策(インフレ率以下に国債の金利を下げる政策)を継続するには、インフレ率以下に国債の金利を維持する「みせかけの金融緩和」を続けるのがベストなのである。

「一連の措置の狙いは、緩和の副作用にも目配りしつつ、強力な金融緩和を持続させることです」と、雨宮日銀副総裁が述べているが、「日銀の金融政策は物価目標が達成できず大失敗している」という報道とは裏腹に、予想以上に上手くいっていると言えるだろう。日銀の政策は、金融抑圧が理想的な財務省の方針とも一致している。