4月28日、ブルームバーグに興味深い報道が出ていた。『ETFは「大量破壊兵器」とFPAキャピタル-市場ゆがめ熾烈な売りも』という記事である。

【上場投資信託(ETF)は株価をゆがめ、市場急落の可能性を生み出している大量破壊兵器だとFPAキャピタル・ファンドのマネジャーらが指摘した。運用資産7億8900万ドル(約877億円)のアクティブ型ファンドを運営するアリク・アヒトフ、デニス・ブライアン両氏は6日付の投資家宛てレターで、「ファンダメンタル調査の必要はなく、バリュエーションを顧みずにインデックスファンドやETFをやみくもに投資家が購入できると世間が判断している今こそ、恐ろしいと感じるべきだ。パッシブ運用商品へのおびただしい資金流入が、株価を一斉に同じ方向に動かし、基本的なファンダメンタルズから市場をますます乖離(かいり)させていると両氏は分析した。ブルームバーグのデータによれば、ETFには今年に入り1600億ドル余りの新規資金が流れ込んだ。ブライアン氏は電話取材に対し、パッシブ投資家が今ほど重要な存在となる状況の下で、株式市場が深刻な下落を経験したことはかつてないとの見方を示し、この新たな市場の構造が試される局面でわれわれは熾烈(しれつ)な売りに見舞われる可能性があると語った】(ETFs Are ‘Weapons of Mass Destruction,’ FPA Capital Managers Say 4月28日ブルームバーグ)

こうした総楽観のインデックス運用への大量資金流入は危険な兆候で、「おそらく、年後半相場で反動の調整売りに見舞われるだろう」と観ている株式運用者は少なくない。

インデックス投資に関しては、米著名投資家ラリー・ウィリアムズが「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)」の5月15日号で鋭い指摘をおこなっている。以下のチャートを参照されたい。

The Rise of the Benchmark

(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)5月15日号 ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店掲載許可をとって掲載)

ラリー・ウィリアムズだけではない。「受動運用(パッシブ運用)の指数バブルが最終局面にある。これから5年は積極運用(アクティブ運用)マネジャーが受動運用マネジャーを上回る成績を出す絶好の機会となるだろう」とネッド・デービス・リサーチ社(主に運用会社向けの独立系調査会社)が分析している。

これを受けて、陰鬱博士と呼ばれる運用者マーク・ファーバーもThe Gloom, Boom & Doom Report2017年5月号で、

【NDR(ネッド・デービス・リサーチ)社の報告書で注目されるのは「あらゆる相場の天井で、行き過ぎを正当化する流行りの物語があり、投資家は常にそれにしがみつく」という事実である。次は受動投資で、それがみられるだろう。「ファンダメンタルズや価値については心配しなくてよい。タイミングは心配しなくてよい。ただ、市場で買って保有するだけなのだ」という台詞のある物語に投資家がしがみついているのだ。

しかし、NDR社はこの流れが終わりに差し掛かっていると考えている。具体的には、S&P500の構成銘柄と指数の相関性が低下しており、それは積極運用マネジャーの失われた権威をいくらか取り戻し始める兆しになるかもしれないとの指摘だ(図11 S&P500構成株と指数の相関性参照)。相場は繰り返される。したがって、受動的指数が難しい状況にあるときは、積極運用マネジャーが成功するだろう。

NDR社の調査では「現在、受動投資が増加しているおかげで、S&P500を構成する全銘柄が過大評価されている。対してドットコムバブルでは、成長株だけに需要があり、割安株は安値にみえた」と指摘している。

現在、安値にみえる株式は、ほとんどない。上げ潮によって、すべてが引き上げられたからだ。2000年には、ミューチュアルファンド運用総資産の90%超が成長株ファンドに流れていた。対して、現在はS&P500が記録的高値で取引されているにもかかわらず、成長株ファンドの資産価値が20年平均の57%を大幅に下回っている。NDR社のアナリストは、このバブルが間もなく弾けるだろうとの考えだ。その最大の理由が資産間での相関性の崩壊である】(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート5月号・日本のレポート代理店の掲載許可をとって掲載)

と、インデックス投資バブルに警鐘を鳴らしている。

米国株の指数ファンドの累計流入額と積極運用ファンドの流出額(2007年~2015年)
アクティブ運用は否定されパッシブ(インデックス)運用に大量の資金が流入

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート5月号「積極運用マネジャーに有望な未来」)

最大手銀行・投資銀行12社の調査部人員数の推移
「ファンダメンタルズや価値については心配しなくてよい。タイミングは心配しなくてよい。ただ、市場で買って保有するだけなのだ・・」だから、アナリストはいらない?

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート5月号「積極運用マネジャーに有望な未来」)

独立系調査会社の市場シェア拡大予想
金融機関の調査部門の衰退とはうらはらに、ネッド・デービス・リサーチ社のような独立系調査会社の市場シェアが拡大していくだろう。

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート5月号「積極運用マネジャーに有望な未来」)

S&P500構成株と指数の相関性(1972年~2017年3月)
昨年、他の資産クラスとS&P500 の相関性は最高0.5から0.28にまで急降下した。S&P500構成銘柄と指数の相関性も2013 年の最高0.775 から現在の最低0.475にまで低下している。

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート5月号「積極運用マネジャーに有望な未来」)

資産間の相関性が急激に低下(2013年~2017年1月)
モルガンスタンレーのファニキラン・ナラパラジュは「相関性の崩壊は通常、景気サイクルの最終局面に起きる」と述べている。景気サイクルの最終局面では、各資産が特有の事象に大きな影響を受けやすくなり、また景気悪化への懸念の高まりに影響を受けにくくなるという。つまり、市場の変動要素が多様化し、各資産間の連鎖が崩れるのだ。

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート5月号「積極運用マネジャーに有望な未来」)

長年相場に携わってきた相場巧者やリサーチ会社が指摘しているインデックスバブルの崩壊に、今年の後半は気を付けるべきであろう。機会が訪れたときのため、万全の備えをしておくことだ。

「人生で成功する秘訣、それは機会が訪れたときのため、万全の備えをしておくことだ」(ベンジャミン・ディズレーリ)

「失敗と成功の境目は、あまりにも微妙すぎるため、そこを通り過ぎたことに、めったに気づかない。あまりにも微妙すぎるので、何度その境目に立っても、それに気づかないのだ」(エルバート・ハバード)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。