長短金利の位置から米国株の行方を占う

 利上げ開始を警戒する株価下落があっても一時的な調整にとどまり、米国株が2022年に弱気相場入りするとは考えていません。

 米国市場の長期実績を振り返ると、債券市場のイールドカーブ(利回り曲線)が比較的低い水準で「順イールド」(長短金利差がプラス)である場合には景気回復局面であったことが多く、株式が堅調を持続しやすかったことが知られています。

 逆に、長短金利差がマイナスとなる「逆イールド」は、利上げサイクルの最終局面で起きやすく、市場が景気や企業業績のピークアウトを視野に入れて株式は比較的低調となりました。

 図表4は、過去約30年における長期金利差(10年国債利回り-2年国債利回り)とその1年後の米国株式リターンを検証したものです。

図表4:米債市場の「長短金利差」と株式リターンを振り返る

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(1991年初~2020年末)

「長短金利差がプラス時(順イールド)から1年後の米国株平均騰落率」は+10.7%と堅調だった一方、「長短金利差がマイナス時(逆イールド)から1年後の米国株平均騰落率」は▲3.3%と低調だった市場実績がわかります。直近の米債市場での長期金利は1.70%で、短期金利は0.82%となっています(5日)。

 つまり、現在の長短金利差は+0.88%とプラス(順イールド)であることがわかります。市場には本年中に長期金利が2%超に上昇するとの予想もありますが、金利水準としては歴史的に依然低水準で、当面も長短金利差はプラスを維持していくとみられます。

 経済の正常化とインフレ警戒感でFRBがテーパリング(量的緩和縮小)や利上げを実施しても、QT(金融引き締め)に転じる動きを想定するには時期尚早と思われます。

 なお、商品相場の伸びが落ち着き、供給制約が緩和すれば、過度なインフレ警戒感が緩和していく可能性もあります。長短金利差の観点で、株式の弱気相場入りを予兆する「逆イールド」が示現する公算はいまだ低いと考えています。

 ただ、市場はイールドカーブのスティープ化(急勾配)を景気回復局面に潜む不安の芽と受けとめがちです。金利を巡る思惑に過剰反応して株価が乱高下する可能性はあり得るので注意を要します。

図表5:米国市場の長短金利と株価の推移を振り返る

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2004年初~2021年末)

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