「米債務危機」の悪夢は再来するのか

 上掲したリスク要因のうち、軽視されている可能性が高いと思われるのが債務上限問題に伴う「米国債ショック(2011年8月)」の再来です。

 イエレン米財務長官は6月以降、連邦政府の借入金限度額(国債発行残高)を定めた「法定公的債務上限額」(22兆ドル)を引き上げるか、同上限額の適用停止を早急に承認するよう議会に要請してきました。2年前(2019年7月)、トランプ政権と議会は同上限の適用を2年停止することで合意しましたが、その期限は7月31日です。

 一方、コロナ危機対応を含めた歳出拡大で、米国債発行残高は28兆ドル超に拡大してきました(図表4)。イエレン氏は、議会が上限適用停止を延長するか債務上限額の引き上げを承認しないと、(資金繰りが窮して)「8月以降に米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性がある」と警告しています。

<図表4:米国債がデフォルト(債務不履行)危機に直面する可能性>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2000~2021年)

 債務上限額の適用停止が期限切れになると、既発債の乗り換えを含む新規国債の発行ができなくなり、連邦行政の執行、政府系機関の維持、公的年金の支払い、国債の元金償還や利払いが滞る混乱が想定されます。

 10年前の2011年8月の「米国債ショック(米債務危機)」では、オバマ民主党政権と議会共和党との交渉が滞り、格付け会社(S&P社)が米国債の信用格付けを引き下げました(AAA→AA+)。

 この事態を憂慮した米ドルと米国株は急落し、世界の金融市場は波乱含みとなりました。債務上限を巡る議会での交渉は与野党の駆け引きが激しくなりがちで、特に共和党は中間選挙(2022年11月)を視野に容易に妥協しない可能性があります。

 CBO(米議会予算局)は、債務上限額の適用停止を議会が承認しない場合「10月にも連邦政府の資金が枯渇しデフォルトに陥る可能性がある」と警告しています。与野党対立が激しくなると、財政リスクがマーケットリスクにつながる可能性があるということです。

 そうは言っても、ぎりぎりのタイミングで与野党が何らかの合意に至り、デフォルトを回避できる道筋となれば、「米ドルや米国株の下落は押し目買いの好機だった」ことになる可能性をメインシナリオと考えています。

 図表3が示すとおり、過去30年間の市場実績によっても「10月以降は株高」(年末高)でした。投資の時間軸を長めに想定し、夏から秋にかけて米国市場がいったん波乱含みとなっても冷静に対応したいと思います。

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