50万バレル追加減産の謎。現状維持でも2020年1月以降、ほぼ減産順守が可能

 JMMCは後に行われるOPEC総会での決議事項を勧告する役目がある会議体です。ただ、サウジとロシアの大臣を含んだOPECプラスの主要国の要人がそのメンバーであるため、実質的に、OPEC・非OPEC閣僚会議と言えます。

 5日午前中にJMMCが終わったあと、メディアはOPEC総会への勧告に、日量50万バレルの追加削減、という内容が含まれている情報を入手し、それが報じられて原油価格はやや上昇しました。※先ほどの図「会合の時間帯のWTI原油先物の動き」の12月5日の部分を参照。

 しかし、その上昇が長続きしなかったのは、OPEC総会がなかなか終わらないため合意ができないのではないか、などの不安感が強まったこと、そして、記者会見がキャンセルされて市場のムードを冷やされたことが要因と考えられます。

 また、その反落の要因に、JMMC後に伝わった日量50万バレルの追加削減について、仮に50万バレルを追加で削減したとしても、もともと多めに削減していたため、実質、現状維持でしかない、という点が意識された可能性があります。

 以下よりOPECプラスの原油生産量と削減目標の関係を見てみます。2018年12月に決定し、2019年1月より行っている現在の減産は、2020年1月から3月までに行うこととなった新しい減産の土台になっています。

 具体的に、現行の減産とは、OPECプラス全体で原則2018年10月に比べて日量119万5,000バレルの削減を実施することを指し、2020年1月からの減産は、(土台である日量119万5,000バレルに)日量50万3,000バレルを追加した、日量合計169万8,000バレルを削減する、というものです。

 このことを図にすると、以下のようになります。

図:減産順守率をもとにしたOPECプラスの原油生産量(筆者推計) 単位:千バレル/日量

出所:JMMCのデータをもとに筆者推計

 JMMCが公表した減産順守率をもとに推計したOPECプラスの原油生産量(減産免除国3カ国を除く)は、上記の赤線の折れ線のとおり、2019年の3月以降、目標である120万バレル削減時の上限を下回った状態で推移しています。目標の上限を下回る、すなわち減産順守状態にある、ということです。

※JMMCは12月8日時点で2019年9月から11月までの減産順守率を公表していません。5日の会合の後にウェブサイトに公表されると見ていましたが、まだ掲載されていません。このため、上記の原油生産量は2019年1月から8月までを示しています。

 日量50万バレルを追加で削減した場合、青線が生産量の上限となります。足元の減産順守率が比較的高いだけに、日量50万バレルの追加削減は難なくこなせるレベルと言えます。

 日量50万バレルの追加削減を行うとしても、2019年8月の生産量(日量およそ4,344万バレル)であれば、減産順守率は約95.9%(100%を超えれば減産順守)で、あと7万バレルを削減すれば減産順守ができる計算になります。

 ほぼ、労せずして、新しい減産のルールで減産順守が可能というわけです。JMMCは“追加減産になっていない”追加減産をOPEC総会に勧告し、それがそのまま今回一連の会合での合意事項になったわけです。

 このような指摘を意識してか、サウジは自ら自主的に削減幅を拡大する旨の主張をしていますが、今回新たに合意した国別の削減プランに自主的な拡大は織り込まれていなかったため、口先だけの主張に終わる可能性があります。

 また、日量120万バレルの削減時の削減量に占める各国にシェア(≒削減負担の割合)と、日量170万バレルの削減を行う2020年1月以降の同シェアの変化を見ると、以下のようになります。

図:日量120万バレル削減時(2019年1月から12月まで)と日量170万バレル削減時(2020年1月から3月まで)の削減目標に占める国別シェアの変化(上位3カ国)

出所:OPECのデータより筆者作成

 上記のシェアが上昇することは、全体に占める削減負担が大きくなることを、逆に低下することは削減負担が小さくなることを意味します。

 2019年12月までの減産時に比べて2020年1月からの減産時の方が、サウジの削減シェアが大きくなっています。一方、シェアが低下したのは、ロシアとアンゴラとイラクです。

 アンゴラは減産と無関係に、もともと自国の深海油田からの生産が減少傾向にあったため、生産回復の道筋を作るべく、削減の負担を軽くする措置がとられたと考えられます。

 削減負担が軽くなったロシアとイラクはアンゴラと意味が異なります。両国は、今回の一連の会合の前から、減産の延長や規模の拡大に難色を示してきた国です。このような難色を示す国に対し、減産体制にとどまることを説得するために、リーダー格であるサウジが自ら負担を増やし、ロシアとイラクの負担を軽減した可能性があります。

 追加と見せかけて現状維持、手ごわい交渉相手には自らの負担増加で懐柔させる。美しすぎる動機を並べて世間によい顔をし、緘口令を敷いて余計な情報を漏らさないようにする。サウジはなぜ、ここまでして減産強化を“見せかける”必要があるのでしょうか?

 それは、国策であるサウジアラムコのサウジ国内市場でのIPO(新規公開株)をスムーズに行い、その後、原油相場を引き上げて企業価値を高め、資産価値「2兆ドル」を達成するためだと考えられます。