金融市場作業部会による株価PKOで米国株はリバウンド中

 S&P 500指数は昨年の12月に大恐慌以来の最大の下落率を記録した。昨年の12月は、株や投資適格社債が2008年の金融危機以来の最悪のパフォーマンスを記録し、最も信用力の低い企業が資金調達をしているジャンク債市場では、1カ月間発行が止まった。

 ムニューシン財務長官は、12月23日にBank of America、Citi、Goldman Sachs、JP Morgan Chase、Morgan Stanley、Wells Fargoの最高経営責任者に電話をかけた。そして、<大統領の金融市場作業部会>を招集した。これは、リーマンショック(金融危機)時の2009年以来の招集である。金融市場作業部会はレーガン大統領が1987年の大幅株安を受けて設立した組織で、株価のPKO(プライス・キーピング・オペレーション)部隊である。金融当局者間の情報共有を踏まえ、当局の対応を市場に伝えて混乱を沈静化する役割がある。

 

NYダウ(日足)レンジブレイクの売買シグナルとトレーリングストップライン(蛍光緑・紫)と大統領の金融市場作業部会の動き

出所:石原順

 

 金融市場作業部会の要請を受けた米国の大手年金基金は、年末の数日間に640億ドルの資金を債券から株式に移した。これで株価は急騰した。また金融市場作業部会は、誰もが知っている大手ヘッジファンドの運用者(名前は明かされていない)に対し、「株価を反騰させて市場を安定させるにはどうしたら良いか」を尋ねたという。いずれにせよ、トランプ政権の圧力によって相場が維持されているというのが、現在の米株式市場の姿である。

 金融市場作業部会による株価PKOで米国株は戻り試しに動いている。この先、史上最高値を更新するような相場になるだろうか? それは、まずあり得ないだろう。この戻し相場はNYダウで下げ幅の半値から61.8%戻しゾーンがいいところではないだろうか? その上には重い抵抗となりそうな100日移動平均線(赤)や200日移動平均線(緑)が控えている。戻り終われば、レンジでの日柄調整に移行するか、再度、下方向に揺り戻す可能性が高くなる。

NYダウ(日足)とフィボナッチのリトレースメント

出所:石原順

 

"ドクター・ドゥーム(陰鬱博士)"と呼ばれる著名ファンドマネージャーのマーク・ファーバーは、2017年までの相場を<超現実主義経済>と呼んでいた。

<超現実主義経済>は、

  1. 賃金は上がらずインフレにならず資産価格だけが青天井
  2. 中央銀行の爆買いという自作自演
  3. 金融市場の低ボラティリティ

 という3つの特徴を持っていた。

 しかし、現在の相場に3つの特徴は見られない。<超現実主義経済>は2018年で終わったのである。それはNYダウ(週足)のオプションボラティリティと14週ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)を見ればわかるだろう。

NYダウ(週足) 低ボラティリティ相場は2017年で終わった…

上段:21週ボリンジャーバンド±2シグマ
下段:14週ATR(赤)・オプションボラティリティ(青)
出所:石原順