FOMC(米連邦公開市場委員会)が6月の会合で公表した最新の経済見通し(SEP、Summary of Economic Projections)によると、メンバーの過半数が、今年の利下げ見通しを「1回(以下)」と予想していることがわかりました。3月時点では3回でした。

 FOMCが利下げに慎重になる理由は、米国の労働市場のせいです。先月発表された5月の雇用統計のNFP(非農業部門雇用者)は27.2万人増と、事前予想の19.0万人増を大幅に上回りました。また平均労働賃金は、前月比0.4%上昇し、4月の0.2%増から上振れしました。

 毎月25万人を超える就業者増加や、労働賃金上昇率の高止まりは、雇用統計の過熱状況がFRB(米連邦準備制度理事会)のインフレ目標達成を遠ざけるという懸念を強めます。

 とはいえ、利下げ回数は、あくまでも現時点での「見通し」です。今後発表される経済データによっては2回に増える可能性もあります。FRB(米連邦準備制度理事会)のウォラー理事も、決定するまでに「あと数ヵ月は様子を見る必要がある」と述べています。

 雇用統計は、9月18日のFOMC会合までにあと3回(今回、8月14日、そして9月11日)発表されます。9月会合の前には、世界各国の中央銀行総裁や政治家が集まるジャクソンホールのシンポジウムが開催されます。もしFRBが9月に利下げするのならば、パウエルFRB議長が世界の金融市場に伝える絶好のチャンスとなるでしょう。

6月雇用統計プレビュー

 BLS(米労働省労働統計局)が7月5日に発表する6月の雇用統計では、NFPの予想は、前月より約8.4万人少ない18.8万人増となっています。失業率は前月と変わらず4.0%で、平均労働賃金は前月比0.3%増(前月0.4%増)、前年比3.9%増(前月+4.1%増)の予想です。

 FRBは、雇用者の増加数の適正水準を20万人前後と考えているようですが、
その水準を今月下回るならば、2カ月ぶりということになります。とはいえ、米国の就業者は半年間で約160万人も増えています。米雇用市場の過熱状態はまだ続いています。

 最近の雇用統計は、予想と発表値、発表値と修正値の差がかなり開く傾向があります。4月の雇用統計のNFPは、25.0万人増の予想に対して17.5万人増と、7.5万人下回りましたが、5月は逆に、19.0万人の予想に対して27.2万人増と8.2万人も上回りました。さらに、翌月には大幅な下方修正や上方修正もあるので、果たしてどれが正確な数字なのかわかりません。これはコロナ禍後に起きている冬と夏の季節変動の振幅の減少、いわゆる季節性の喪失という構造変化にBLSの季節調整モデルが十分に対応していないことが原因のようです。

 雇用統計は、予想と結果のギャップに毎回大騒ぎするよりも(それはそれで楽しいのですが)、雇用市場の変化が及ぼすマクロ的な影響により注目するべきでしょう。