税金の知識を身につけることが「コスト」減少につながる

1月も終わりに近づき、確定申告シーズンがやってきました。個人投資家の皆さんの中には、株式投資や資産運用の税金の仕組みがよくわからずに困っている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、今回から5回の予定で、「知れば得する、知らなければ損する」資産運用の税金を特集します。
株式投資や資産運用にまつわる税金の知識は、個人投資家にとって必須です。なぜなら、税法上認められた様々な特例・特典を知らなければ、本来少なく抑えられたはずの税金を余分に納めなければならない可能性も大いにあるからです。税金を抑えられれば、その分手元に残る利益が増えます。税金はいわば「コスト」の1つ。コストをできるだけ少なくすることが株式投資でより多くの利益を上げることにつながるのです。

JAL株は上場廃止までに売却するのが節税の条件

今回は、知っていれば得するが、知らなければ損をする税金の知識として、「破たんした株の税制上の取り扱い」についてご説明します。
先日、日本航空(JAL)が会社更生法適用の申請を行い、経営破たんしました。証券取引所では、会社更生法適用申請や民事再生法適用申請などによって経営破たんした銘柄は、整理銘柄として1カ月間売買を認めた後、上場廃止することになっています。
JAL株を保有する個人株主は約38万人といわれていますが、JAL株に限らず、もしご自身の持ち株が経営破たんして紙くず同然になってしまったとしたら、その株について考えることもいやになり、何もせず放っておいてしまうかもしれません。
しかし、「節税」の観点からは上場廃止になる前に株価1円でもよいから売却するのが正解です。

売却しなければ損失と認めないのが税法の世界

別の回で詳しく説明しますが、株式の売却益に係る税金は、1月~12月の1年間の間に株を売却して得た利益から、売却により生じた損失を差し引いた残りの額に対して課せられます。また、利益より損失の方が大きい場合は、確定申告をすることで残った損失を翌年以降最大3年間繰り越して、将来の売却益と相殺することができます。
税法では持ち株を「売却」しなければ損失として認めないのが原則です。
仮に経営破たんになった銘柄を何もせずに放っておくと、やがては上場廃止になり、株式も無価値になります。持ち株の価値がゼロになったのだから、税金の計算上、その株の取得費は損失として当然認めてもらえるだろうと思いがちですが、例え持ち株の価値がゼロになろうとも、「売却」しなければ損失とすることはできません。

JAL株を売却するかしないかで税金はこんなにも違う

もし、JAL株を1株250円で4,000株、合計100万円で取得して保有していたとすると、JAL株を経営破たん後に売却するかしないかで、次のような差が生じます。(説明の便宜上、手数料は考慮していません)

経営破たん後にJAL株を1株1円で売却した場合

取得費100万円-売却額4,000円=99万6,000円の売却損が認められます。 もし、同じ年に他の株の売却で100万円の売却益があれば、損益通算ができますから課税対象額は、100万円-99万6,000円=4,000円。これの10%にあたる400円が税金となります。
また、同じ年に他の株の売却益が全くなかったとしても、確定申告をすれば売却損を3年間繰り越すことができます。翌年以後3年間の間に生じた売却益と相殺することで、最大99万6,000円×税率10%=9万9,600円を節税することができます。

経営破たん後もJAL株を売却せず放っておいた場合

取得費100万円については売却損として認められません。
もし、同じ年に他の株の売却で100万円の売却益があっても、JAL株の取得費は売却損とならず、損益通算ができませんから100万円丸々が課税対象。税金は100万円×10%=10万円となります。
また、同じ年に他の株の売却益が全くなかった場合でも、JAL株について売却損の繰り越しはできませんから、将来の売却益と相殺して節税することもできません。

特定口座かつ特定管理口座を開設していれば救済の可能性あり

ただし、経営破たん銘柄を売却しなくても、売却したものとみなしてもらえる特例(いわゆる「みなし譲渡損の特例」)もあります。特定口座および特定管理口座を開設しており、かつ経営破たんした銘柄を特定口座内にて保管していた場合に限り、100%減資などで株が無価値になったことが確定した時点の属する年の株式売却損益計算上、当該経営破たん銘柄の取得費を損失として他の銘柄の売却益と損益通算することができます。
しかし、この特例を満たすためには上記の要件だけでなく、「当該経営破たん銘柄が上場廃止となった後も証券保管振替機構(ほふり)での取扱が継続されていること」が追加条件となります。この追加条件は、株券の電子化に伴い設けられたものですが、株券電子化以降経営破たんした銘柄のうち、追加条件を満たし、みなし譲渡損の特例が適用されたケースはほんの数例に過ぎません。
日本航空株がこの追加条件を満たすかどうかは現時点では不明であり、たとえ日本航空株が特定管理口座にて管理されていても、みなし譲渡損の特例が適用されない可能性もあることには十分注意してください。
しかも、これら全ての要件を満たした場合でも、この特例では損失が認められるのは当年限りで、損失を翌年以降3年間繰り越すことはできません。もし損益通算できる売却益がなければ、残った損失は繰り越せずに切り捨てになってしまいます。
このことから、税制面の恩恵を最大限受けるためには、経営破たんした株式は上場廃止になる前に売却することが最も有利かつ確実であるといえます。

いかがでしょうか。「経営破たん銘柄であっても売却しなければ損益通算や損失繰り越しといった税制上の恩恵は受けられない」、という知識1つとってみても、知っているかどうかで支払う税金も大きく異なってくるのです。
余計な税金を支払わなくて済むよう、この機会にぜひ株式投資・資産運用に関する税金の知識を深めていってください。