エネルギー価格急落で広がった安心感

 侵攻から1年が経過した2023年2月はまだ、侵攻直後並みの賛成票(73%)がありました。賛成票の急減、つまり棄権・欠席の急増が確認されたのは同年5月ですので、同年の春に大きな出来事があったと考えられます。筆者が注目したのは、エネルギー価格の推移です。以下は、天然ガス、石炭、原油の価格推移です。

図:エネルギー価格の推移(2008年1月を100)

出所:世界銀行のデータをもとに筆者作成

 ウクライナ戦争が勃発した直後、一斉に西側諸国がロシアにさまざまな制裁を科したことでロシア産のエネルギーの流通量が減少し、世界的なエネルギーの供給減少懸念が高まりました。これにより、各種エネルギー価格は急騰状態に入りました。

 このことは、世界中にウクライナ戦争とエネルギー価格が連動している印象を広め、エネルギー価格の動向が、ウクライナ戦争がもたらす危機のバロメーターになりました。

 こうした状況の中、2023年春、エネルギー価格は急落しました。

 ウクライナ戦争勃発前から発生していたインフレや戦争起因の景気後退、インフレ退治のために行われた米国での利上げをきっかけとしたドル高によるドル建てコモディティ(国際商品)全般の割高感情勢など、インフレ起因の西側諸国が関わる複数の事象が一度に重なったことで急落が発生しました。欧米の銀行の連鎖破綻や中国の景気後退懸念なども拍車をかけました。

 エネルギー価格の急落、すなわち危機低下をバロメーターが示したことを機に、ウクライナ戦争が沈静化しているというムードが生まれたと考えられます。2023年春ごろに起きたこうした出来事が「脱ウクライナ危機」の一因になったと考えられます。

 西側諸国が躍起になってインフレ退治をし、それが功を奏したものの、結果としてインフレ退治がウクライナ戦争への関心低下を促してしまったともいえます。