緩和ムードは「始まりの始まり」の段階

 利上げ温度感低下が「始まりの始まり」の段階にあると、書きました。以下は、FRBが重視するインフレ動向を示す経済指標の推移です。米国の代表的な物価指標である、CPI(消費者物価指数)とPCE(個人消費支出)です。

図:米コアCPIとコアPCEの推移(前年同月比)

出所:Bureau of Economic Analysisのデータより筆者作成

 CPIはPCEよりも発表のタイミングが早いため、市場の注目度が高いとされています(ともに毎月発表される)。ただ、FRBは個人レベルの物価動向を包括的に示す傾向があるPCEを、金融政策を決定するためにより重視しているとされています。

 上図のとおり、これらの物価指数(比較的変動が大きいエネルギーと食品を除いたコア指数)は、コロナ起因の米金融緩和やロシアのウクライナ侵攻、物流障害や人件費増加などにより2020年から急激に上昇しましたが、この数カ月は低下しつつあります。

 先述の図「金(ゴールド)に関わる短中期の三つのテーマの動向」の「これまで」が、急激に物価が上昇してインフレ退治(利上げ)が急務だった時で、「目立ちつつある状況」が、物価指数が低下してインフレ退治(利上げ)の動機が低下しつつあるこの数カ月の状況です。

 PCEを「モノ」と「サービス」に分けたのが以下です。すでに「モノ」のインフレは沈静化したと言えるでしょう。「サービス」についても低下しつつあり、あと2%程度低下すれば「サービス」のインフレも沈静化したと言えるでしょう。

図:米PCE物価指数におけるモノとサービスの推移(前年同月比)

出所:Bureau of Economic Analysisのデータより筆者作成

 PCEの一部がインフレ沈静化したことを示し、残りが沈静化に向かい始めていることは、インフレ退治のために行われてきた利上げの温度感低下の「始まりが始まっている」ことを、より詳しく示していると言えます。

 利上げの温度感低下の「始まりの始まり」は、金(ゴールド)相場に強い上昇圧力がかかる「始まりの始まり」でもあります。

 利上げの温度感低下→利上げ打ち止め→利下げ、という図式を見いだしやすくなり、利下げとほぼゼロ金利という強い緩和策が講じられて、代替通貨起因の強い上昇圧力がもたらされた2008年から2013年ごろや、2019年から2020年半ばまでの「ドル安・金(ゴールド)高」が目立った時期を連想しやすくなるためです。(これらの時期は株高・金高だった)