短中期の三要素のうち二つが上昇を支持
以前より本欄で述べてきたとおり筆者は、金(ゴールド)市場は七つのテーマでできていると考えています。以下のとおり、短中期は三つ、中長期は三つ、超長期は一つです。
図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(1)
史上最高値に達した足元の短期的な値動きを説明するため、短中期的な三つのテーマそれぞれに注目します。
図:金(ゴールド)に関わる短中期の三つのテーマの動向
FRB(米国の中央銀行にあたる機関)は、昨年からインフレ退治と銘打って急激な利上げを行ってきました(図内の「これまで」)。
しかしこの数カ月、利上げへの温度感が低下する兆しが生じ、それによるドル安が金(ゴールド)相場に上昇圧力(代替通貨起因)をかけてきました。(図内「A」)
実際にこの1カ月間で、米国の金利動向を示す重要な指標になり得る米10年債利回りは大きく低下(マイナス14%超)し、複数の主要国通貨に対する米ドルの総合的な強弱を示すドル指数も低下しました(マイナス3%超)。
同時に、ウクライナ戦争においてゼレンスキー大統領が領土奪還なしに停戦はないとやや硬い姿勢を示したことや、イスラエル・ハマス戦争においてハマス側が一時停戦をほごにしたとイスラエルが報じたことなども、金(ゴールド)相場に上昇圧力(有事ムード起因)をかけたと言えます。(図内「B」)
当のFRB自身はまだインフレ退治のための利上げは必要だとしており、本格的に利上げへの温度感の低下が始まったとはいえないため、足元の状況は、利上げへの温度感低下の「始まりの始まり」であると言えるでしょう。
この「始まりの始まり」は、利上げへの温度感の低下→個人・企業の資金調達促進観測→景気回復期待増幅、という連想を生み、足元のNYダウ(ダウ工業株30種平均)などの米国の主要株価指数に上昇圧力をかけています(プラス10%弱)。(図内「C」)
金(ゴールド)相場の史上最高値更新は、利上げ温度感低下の「始まりの始まり」という代替通貨起因の上昇圧力、および有事ムード起因の上昇圧力という二つの上昇圧力と、株高による代替資産起因の下落圧力がせめぎ合い、上昇圧力が勝って起きたと言えます。