今回のサマリー
●AI相場の盟主NVDAの決算は、全投資家の関心を集める一大イベント
●それだけに投機も集まり、8月のように好決算でも相場にかく乱が発生しがち
●このため長期的な需要トレンドと、短期的な相場動意の両方に目配せする必要がある
●NVDA決算は、同社先導の雁行相場で連なる他のAI銘柄・業種を見渡す好機でもある
●今回もさすがの好決算であり、ここから年末年始相場への構え方は…
エヌビディア決算の別視角
11月20日(日本時間21日早朝)、注目のエヌビディア(NVDA)社の決算が発表されました。アナリスト予想を上回る好結果で、さすがNVDAというところです。ただし、第4四半期の売上げ見通しが順調に伸びているにもかかわらず、アナリスト予想の最大値に届かなかったなどと報じられています。
最近の主要企業の決算では、こうした些細(ささい)なことが投機の売り逃げ連鎖のトリガーになることもあり、一応留意します。決算判明後、NVDAは時間外市場で軟調ながら、このままなら相場に過剰な波紋は生じないでしょう。地政学リスクと金利動向を意識しながら、年末相場へ向かい、リバランスを経て、新年に入る相場リズムを再計算します。
当レポートでは、ここからのNVDA相場、AI(人工知能)相場に、筆者はどう構えるかを解説します。まずNVDA主導のAI相場をおさらいしましょう。
この2年間の米株式相場は、ほぼAI一色だったと言って過言ではありません。NVDAが先導して、AI導入を推進するGAFAM(アルファベット、アップル、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトの5社)などビッグテック、さらに、AI普及に伴って、他の半導体、データセンター、サーバー、ソフトウエア、電力など、周縁銘柄・業種が連なる雁行飛行相場でした。
NVDAとGAFAMなど一握りのビッグテックは、S&P500種指数やナスダック総合指数において、何割もの比重を占めます。このため、ビッグテック株の上昇は指数自体をも引き上げます。こうして、米株式相場は強いと言われたものですが、非AIの一般銘柄はほとんど浮揚していません。
最近でこそ、景況感が上向き、第二次トランプ政権の減税と規制緩和も重なり、景気・バリュー株に一定の買いが出ていますが、それでもAI相場のダイナミズムからすると、相当に地味な値動きです。
そんな状況下でのNVDA決算です。市場は、米選挙、FOMC(米連邦公開市場委員会)、雇用統計と肩を並べるほどの注目度で、同社決算を注視します。そして、意識をそこに集中するあまり、ついついNVDA相場の値動きばかりにヤキモキしがちです。
しかし、AI需要がトレンドとしてまだ続くという業績=ファンダメンタルズ上の相場観と、決算絡みの投機がかさんで生じるかく乱相場の対比は、AI相場の力学分析にとって貴重なデータを提供してくれます。
NVDA相場が動く時、他のAIビッグテック、AI周縁銘柄、株式指数や非AI銘柄はどう動くかと、市場を広く水平にチェックする好機でもあります。NVDAの値動きばかりに目を奪われて、心をざわつかせていてはもったいない場面です。
次回以降の決算に臨む時に、この視点がお役に立つなら幸いです。
8月の記憶
相場を見るとき、中期、長期と時間軸を伸ばすほど、ファンダメンタルズ(業績)に見合う経路をたどると考えられます。その点でAIの需要はトレンドとしてまだまだ堅調でしょう。
ただし、著しい成長分野においては、業績見通しも強気に振れ、市場の期待も先行的に高められることが珍しくありません。このため、PER(株価収益率)から見て、割高に推移しがちとなります。それほどまでに買いが先走る相場は、上がれば上がるほど、売り逃げの潜在的圧力を高めていきます。
それが顕著に表れた事例の一つは、8月下旬のNVDA決算発表時の値動きでした。決算の結果は良好でした。しかし、過去何回かの決算で、相場が吹き上がったことから、決算をはやす投機的買いがかさんでいたとみられます。好結果を反映した相場上昇が鈍化すると、投機の利益確定売りが始まり、値下がりが進むと、売り逃げラッシュになり、結局大幅安になりました。
ちまたの市況解説はいつも通りに相場の値動きを追認します。相場下落を説明しようと、NVDA決算のここが期待に届かなかった、AIバブルが弾けた、などと言い出す始末。こうして、好決算のはずが、相場が下がったゆえにネガティブな心証を広めてしまいました。
当時、筆者は、AI需要トレンドの強さからすると、NVDA相場には、まだまだ立ち直り動意を見せる猶予が続くとしました。ただし、良かったはずの決算で売られた記憶は尾を引き、9月、10月は波紋のように上下動を繰り返しそう、そして、11月も、8月決算時のように買い投機がかさむのではなく、事前に利益確定売りがある程度出て、本番を迎える流れではないかという見立てをご案内しました。
決算内容の微妙な強弱感は公表されるまで分かりません。この不確実性に対して、投資ポジションに映し出される投資家の行動、それに伴う相場の動きは意外と素直なのです。
したがって、いわば「当たるも当たらぬも八卦」の決算と相場の一次反応に思惑を張るより、その前の素直な投資行動を逆手に取るとか、NVDA決算の影響を受けにくい周縁銘柄を狙うなど、別視角のアプローチも一考です。誰にでも推奨できるアプローチとは言いませんが、NVDA決算や選挙など大イベントに目を奪われがちな時、異なる視角を持つことができれば、相場への理解度が格段に上がるはずです。
NVDAへの気がかり
NVDA決算については、中長期の需要トレンドはまだまだ強いことに疑いを持ってはいません。このため、NVDAなどAI中核銘柄について、ファンダメンタルズに沿って買い目線、ただし短期的には投資家の心理・行動学的な揺らぎを踏まえた機動的対応、という構え方を維持し続けています。これからも変わらないでしょう。
言い換えると、ファンダメンタルなトレンドは上、しかし成長分野ゆえの速い相場には高下がつきものという基本を踏まえて、相場の妙味を獲るというだけです。筆者は、独自の相場モデルに基づいて売買していますが、一般的なチャートでも、行動学的動意を読む指針を得られます。
図1は、NVDAについて、上段が日次バーチャートと50・100・200日移動平均、中段が出来高、下段がMACDです。筆者は8月決算以降に、トレンドはまだ上、ただし波紋を繰り返す展開という見立てをご案内しました。そして、時間経過とともに、相場リズムがどう変化するかを追跡するのです。
図1:NVDA(50・100・200日移動平均、出来高、MACD)
8月急落後、相場は移動平均より上方で堅調トレンドをたどり、上値を更新するに至りました。しかし、リズム面で気がかりが浮上します。一つは、波紋の山谷が少しずつ上に切り上がる一方、MACDの波紋の山谷が切り下がる「ダイバージェンス(乖離[かいり])」です。相場は上昇しているものの、相場の「モメンタム(勢い)」が落ちていることを示唆(しさ)します。
MACDのプラス領域でのダイバージェンスは、単に上昇トレンド中の波紋として起こるので、ちょっと留意しておくか、というほどに見ます。しかし、そこにもう一つの気がかりとして、8月決算以降、基調的に出来高が減少しています。出来高は株価の先行指標とされます。価格が上がって、出来高が減る巡り合わせは、限られた投資家の買い回転で値上がりしつつ、相場の厚みの減退をうかがわせるのです。
こうした行動学的指針の多くは、あくまで短期テクニカルな相場に対応するものです。今回の好決算に素直に、NVDAの上値余地が広がるならば、様相を一変させるゲンキンさを見せる可能性もあります。それでも、こうした指針で、市場参加者がその時々に感じる不安や慢心の具合を観察することで、適正な投資リスクをとり、時に市場心理を逆手にとって妙味を獲る対応を可能にするのです。
AI相場 ここからの構え方
今回の決算も、さすがNVDAとでもいうべき好結果ではありました。しかし、盟主NVDAであっても、決算絡みの投機のかく乱が見られます。このため、今回も好決算でも相場が上がり切れないことが、投機の売り逃げ連鎖のトリガーになるテクニカル・リスクを排除せず、まずは慎重に観察します。その上で、買い出動の時機を模索し、他銘柄を含めた物色をしていく構えです。
筆者は引き続き、AI分野の盟主たるNVDAを軸に、相場のトレンドとリズムを計測し、それに基づいて、買い方を検討し続けます。AI用チップではNVDAの独壇場がまだ続くとみられ、需要動向を数値で捉えやすいこと、その値動きがAI雁行相場の基点と見なされることが理由です。
一方で、短期ではファンダメンタルズ以上に、テクニカルな行動学的アプローチも取り入れて、怪しさがあれば、サクッと売る機動性も意識して臨みます。NVDAの時価総額は個別企業としては世界最大級となり、浮上するにも相当なマネーが必要です。巨額な投機も加わって持ち上げ、予想PERで50倍超と割高感もにじみ出る昨今、些細なことで売り逃げがかさむ展開にも留意が必要です。8月以来の神経質さを早々に脱するか、11月好決算にもかかわらずグズグズして尾を引くかは、予断を持たずに観察し、対応します。
雁行飛行の先導役が不安定かもしれない間は、そして先導役がしっかりしているならなおさら、後方に連なる周縁銘柄の中の有望株・業種も物色し、種まきする構えです。GAFAM、他のAI・一般半導体、データセンター、サーバー、ソフトウエア、電力など周縁銘柄のお宝探しが楽しくもあり、次の有望銘柄候補がいくつも観測されています。
中小銘柄は、NVDAのように強力で明快な需要動向が見えず、期待だけで祭り上げられるものもあります。上述の通り、急成長分野では、ファンダメンタルズの予想より期待が先行しがちなので、それがそのまま報われるばかりでなく、期待の高みから急にハシゴ外しされたかの下落も散見されます。
NVDAというAI盟主の決算、その相場の動意は、これら周縁銘柄の妙味とリスクを広く見渡す機会にもなることを、ご一考ください。なお、NVDAと周縁銘柄・業種の値動きの詳細は、筆者の同日公開のトウシル動画で解説しますので、ぜひご覧ください。
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