自社株買いは、会社にも恩恵がある

 自社株買いは、株主にメリットが大きいが、会社にもメリットがあります。会社は買い取った自社株の分だけ配当金を払わないで済みます。買い付けた株数の分だけ、配当金の支払い総額を減らすことができます。

 米国企業は、自社株買いを、財務戦略の一環として重視しています。昔、米国企業の投資家説明会で、自社株買いの目的を「自社株への投資が、一番利益率が高いので実施する」と説明していたのを聞いたことが印象に残っています。

 簡単な例で説明しましょう。

 A企業が、余剰キャッシュを10億円持っていたとします。その使い道に、【1】設備投資【2】借金返済【3】自社株買い【4】大口定期預金の四つの選択肢があったとします。

【1】設備投資のニーズなく、無理に投資しても投資利回りは2%しか期待できない

【2】借入金利は2%

【3】自社株の配当利回りは3%

【4】大口定期預金の利回りはメガ銀行で0.002%程度

 この場合、自社株買いの利回りが一番高くなります。配当金は、税引き後利益から払われます。配当金を減らせば、税引き後で3%のリターンが得られます。税引き前では、4.5%程度の高い確定利回りが得られる計算となります。

 このような場合に、財務戦略として、自社株買いを実施することが、会社にとって一番利益率の高い投資先となるわけです。米国企業は、そういうことを説明していたのです。

自社株買いのメリット、おおまかな計算

 自社株買いを発表する企業が増えています。発表された自社株買いが、株主にどのくらいのメリットがあるか、おおよその見当を付ける方法を、お教えします。

 発表された自社株買いが、全て実行されるとした場合、発行済株式数が何%減るのか、見ると良いです。

 具体例を見てみましょう。以下は、2023年5月12日に発表された、大成建設(1801)の自社株買いの概要です。

 ここで、一番注目していただきたいのは、私が赤で囲んだところ、「発行済株式総数に対する割合3.19%」です。上限株数を発表時の株価で買い付けると、発行済株式総数が、3.19%減少します。ということは、1株当たり利益が、おおむね3.19%増えるわけです。

 PER(株価収益率)などの株価評価が変わらなければ、自社株買いで、1株当たり利益が3.19%増加し、株価が3.19%程度上がると期待できます。厳密に計算すると、もう少し異なる結果となりますが、ざっくりしたメリットの把握としては、上記でOKです。

 次に注目していただきたいのが、青で囲んだ「取得期間」と「取得の方法」です。「2023年5月15日から2024年3月31日」まで、「市場買付」とされています。つまり、「1年くらいかけて、市場で買っていく」ということです。

 自社株取得枠で表示される金額は、あくまでも上限であって、それを本当に全て買うか分かりません。株価が上昇し過ぎると、買わないこともあり得ます。

コロナショックで一時減少した自社株買いがまた増加へ

 2020年はコロナ禍で不測の事態に備えるために、バランスシートで保有するキャッシュを増やす企業がたくさんありました。そのため、自社株買いを控える動きが広がりました。

 ただし、2021年から2022年にかけて、コロナ禍が徐々に収束するにつれて、企業活動は徐々に正常化し、自社株買いを復活させる企業が増えてきました。

 東京証券取引所が、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れる企業が東証上場企業の半数以上になっている現状を憂慮し、株主価値改善策の開示と実施を、PBRの低い企業に要請しました。これを受け、今後、日本企業に自社株買いが増えてくる期待が高まっています。

 私は、今後、東証上場企業で毎年10兆円以上の自社株買いが実施されると予想しています。

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