間違いだらけのデータに頼るFRBの行く末

 米雇用統計は、牛肉でいえば、A5ランクに相当するような最高級のデータです。なぜなら米雇用統計の結果は、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策に重大な影響を与えるからです。

 世界中の投資家が毎月第1金曜日の発表時間にはモニターの前でじっと待機しているのですが、最近は雇用統計の非農業部門雇用者数の事前予想が大きく外れることが多い。A5ランクの指標にC1ランクの予想が結構な割合で混じっているのです。

 例えば、

1月のNFPは、予想+19.0万人に対し、結果+51.7万人(誤差+32.7万人)、
2月のNFPは、予想+20.0万人に対し、結果+31.1万人(誤差+11.1万人)、
4月のNFPは、予想+17.8万人に対し、結果+25.3万人(誤差+7.5万人)、
5月のNFPは、予想+19.0万人に対し、結果+33.9万人(誤差+14.9万人)、

など、平均して毎回約16.5万人もの差異が生じています。

 これだけ大きな誤差が発生する原因としては、政府予算の縮小でデータ収集量が少なくなっていることや、新型コロナ後の経済の急激な構造変化で従来の季節調整が機能しなくなったことがあります。

 米国の重要な経済指標の多くはアンケート調査に基づいています。一般に、家計調査の回答率が60%を下回るとそのデータの信頼性は低くなるといわれていますが、CPI(消費者物価指数)の回答率は55%、NFPはそれよりさらに低く40%程度しかありません。

 それだけではなく、コロナ中から急速に増加している副業やスタートアップの小さい会社の雇用状況も調査から漏れています。全米の過半数以上の企業データを欠いていては、正確さを疑ってしまいます。

 パウエルFRB議長は、今後の金融政策の見通しを問われて「経済データ次第」だと返しています。

 FRBに限らず先進国の主要中央銀行が、これまでになく経済データに依存する時代に、そのデータの信頼性が著しく低下していることを認識しないまま政策を決定することは、経済が直感や先入観によって誤った方向に誘導される可能性が高いということであり非常に危険なことです。