欧米の金融不安は収束するか、楽観論と悲観論

 欧米の金融不安は収束していません。米地銀不安は続いており、地銀からの資金流出に歯止めがかかっていません。また、欧州の金融不安も、CSの不安はやや低下したものの、ドイツ銀行の株価が下落するなど、他の金融機関に不安が飛び火するリスクはまだ残っています。

 パウエルFRB議長やイエレン財務長官は、金融不安が収まっていないからこそ、「米銀行システムは健全」と強調しているようにも見えます。

 ただし、SVBとCSの財務悪化は特殊要因によるものだから、他の銀行全般に波及することはないとの楽観論があるのも事実です。その内容を検証します。

【1】楽観論:銀行システムは健全、SVBとCSの財務悪化は特殊要因によるものとの見解

 SVBは、銀行にとって初歩のALM(資産負債リスク管理)ができておらず債券投資にのめり込み、金利の急上昇で破綻しました。

 ALMがきちんとできていれば、金利上昇だけでは銀行は破綻しません。SVBのような、ALMの初歩ができていない銀行がたくさんあるわけではありません。その意味でSVBの破綻は特殊です。

 CSの破綻も特殊です。CSの財務悪化は複合要因によるものですが、一言でいえば、投資銀行部門の暴走によって財務を毀損(きそん)しました。

 CSは、破綻すると世界の金融システムに重大な影響を及ぼす「国際的に重要な金融機関」に指定されています。2008年のリーマンショック以降、「国際的に需要な金融機関」には、厳しい自己資本規制が課せられ、自己資本を危険にさらす取引は制限されることになりました。

 そのおかげで、リーマンショック以後、巨大金融機関の危機は起こらなくなっていました。ところが、CSはその規制をかいくぐる形で危険な取引を繰り返し、財務を毀損しました。

 リーマンショック以降、巨大銀行は基本的には過剰なリスクを取ることがなくなっているので、米国でも地銀不安が高まる一方、大手銀行には地銀から引き出した預金が集中する事態が起こっています。金融システム全体の不安が高まっているわけではないとの見方があります。

【2】悲観論:米オフィス市況下落が続き、今後銀行で不良債権が急拡大するとの見解

 米地銀の不安には、二つの要因があります。一つは、SVBを破綻に追い込んだ、米国の急激な利上げ。その影響で債券投資の損失が拡大しています。ただし、これだけで破綻する銀行はそんなに多いと思えません。

 より深刻な問題は、米オフィス市況が下落していることです。リモートワークの普及で、オフィスの需給が軟化したことが要因です。リオープンが進んでも、オフィスに人が戻る可能性は低くなっています。

 例えば、ニューヨークでいうと、オフィス街中心のミッドタウンには人が戻らない状態が続いています。今後、テナントによる賃貸オフィス解約が増えてくる可能性があります。これを受けて、オフィスREIT(リート:不動産投資信託)の価格も下落しています。

 米地銀には、金余りが続いて貸付先が不足する中で、オフィス用ローンを拡大してきたところが多く、オフィス市況軟化で、先行き不良債権が増えるリスクに注意が必要です。

 このように、米地銀の不安を、SVBショックが波及しただけ、ととらえると、問題の根源を見誤ります。オフィス貸金の信用悪化が、米地銀の不安の根源にある可能性があります。