ケージにはまって抜け出せない西側
もう一つ、「西側の体力低下」が進行している例を述べます。米国を含む西側の多くは、利上げを中心としたインフレ対策(物価高鎮静化策)を講じています。しかしその策が、かえって不安・混乱を助長してしまっている様子が見受けられます。
以下の図のとおり、西側は「インフレの回転ケージ」にはまり、「大衆の不安拡大」→「リーダーの大衆迎合」→「中央銀行利上げ」を繰り返しています。この回転が強くなるにつれて、景気悪化、世界分断、そして、インフレ対策に腐心するあまり、ウクライナ危機を放置していることから、中ロ影響拡大、資源囲い込みなどの複数の悪影響を生み出しています。
西側がケージから抜け出せないのは、インフレの根本原因であるウクライナ危機を鎮静化する策を講じていないためです。「ウクライナ危機」というインフレの根本原因を解決しない限り、いくら利上げを行っても、インフレを沈静化することはできません。
ウクライナ危機が勃発したことで、「買わない西側・出さないロシア」の動きが生まれ、それにより、世界各地で玉突き的な供給不足(場当たり的な資源調達)が発生しています。(ロシアは西側が勝手に回転し、勝手に不安を拡大させている様を見て、ほくそ笑んでいるかもしれません)
この点もまた西側の「体力低下」と言えるでしょう。体力があれば、「買わない」を断行しながら、インフレに耐え忍ぶことができるはずです。無理な利上げをすることもないでしょう。
図:インフレの回転ケージ(筆者イメージ)
目に見える分断、「反西側体制」の芽
次に、ウクライナ危機が勃発した背景の一つ、(2)危機を勃発させた後の絵を描くことができたこと、の中で述べた「西側への不満顕在化」が具体的に進行している例を述べます。これも先程の「西側の体力低下」と同様、「反西側体制」構築を許す一因です。
10月12日、国連総会は「ロシアによるウクライナ東部と南部の4州の併合は違法で無効」とする決議案を賛成多数で採択しました。193カ国中、143カ国が賛成しました。これを受け、「ロシアの孤立がさらに目立った」「ウクライナ情勢が沈静化する方向に向かった」といった報道が目立ちました。
以下は193カ国の動向です。賛成143カ国、反対5カ国、棄権35カ国、未投票10カ国でした。
賛成しなかった国(ロシアに否定的な姿勢を示さなかった反対、棄権、未投票だった国)は、合計50ありました。これらの詳細を見てみると「旧ソ連諸国」のほか、「アジア隣接国」「OPECプラス」などの共通点が浮かび上がってきます。
その他、「独裁色が比較的濃い国」という共通点があることや、鉱物資源を保有するアフリカの複数の国々(南アフリカ、ジンバブエなど)が棄権した(ロシアを否定しなかった)ことも、今回の結果の特徴と言えます。
図:10月12日の国連決議の結果
こうした結果は、「反西側(≒反資本主義)」、引いては「反脱炭素」「反人権主義」などの考え方が広がり始めていることを示唆しています。まさに、西側への不満が顕在化しつつあることを示す具体的な例と言えるでしょう。
ロシアにとってこうした動きは「好ましい」はずです。旧ソ連諸国だけでなくアジアの近隣国、資源国、(さらに言えば中国やパキスタン、インドなどの核保有国までも)、ロシアを表立って否定していないことは、ウクライナ危機が長期化することだけでなく、ロシア(資源供給国)と中国(資源消費国)が新たなエネルギー価格を決定する仕組みを作ることや、政治・経済の両面から、明確に西側と対立する組織が勢力を拡大しつつあることを示しているとみてよいでしょう。
世界の「分断」はウクライナ危機がきっかけで、深まったと言えるでしょう。「西側」とロシアを中心とした「反西側」。溝が深ければ深いだけ、事象の改善は困難です。ウクライナ危機を沈静化させることは、非常に難しいと言えるでしょう。
その意味では、エネルギー価格はまだしばらく高止まりし、インフレ(物価高)は続く可能性があると言えるでしょう。(利上げではインフレを根治できない)
今回は「エネルギー価格・関連株は長期高止まり!?[全般編]」として、ウクライナ危機をメインテーマとし、足元のエネルギー市場を取り巻く環境を確認しました。
次回の[基礎編]は、以下について述べる予定です。
●「OPECプラス」、「GECF」って何?
●世界No.1の産油国・産ガス国はどこ?
●WTI、ブレント、ヘンリーハブ、TTFって何?
●上流・中流・下流って何?
●エネ価格・関連ETFは長期で高止まりか!?