水素エネルギーが脱炭素の切り札になる理由

 水素エネルギーについて基礎的な説明をしていませんでしたので、最後に「なぜ、水素エネルギーが脱炭素の切り札」なのか解説します。

 人類はこれまで、化石燃料から得られるエネルギーを使って経済を成長させてきました。しかし、化石燃料は有限で環境に悪影響もあることから、いつまでも化石燃料に頼った成長を続けるわけにはいきません。

 将来的には、太陽光・風力・水力・地熱など自然エネルギーによる電力だけで必要なエネルギーをまかなう必要があります。それが、脱炭素の鍵です。

 ただし、自然エネルギーには1つ、重大な問題があります。自然まかせなので、発電量の調整がしにくいことです。また、需要地から遠く離れた場所で発電するものが多く、需要地(都市部)まで運ぶ送電線を確保するのが困難という問題もあります。

 電気エネルギーの最大の弱点は、「保存」「運搬」が簡単にできないことです。特に、「保存」ができないことが重大問題です。そのため、自然エネルギーによって、大量の電気を得ても、それを有効に使う術がありません。

 例えばアフリカの砂漠に太陽光パネルを敷き詰めて一斉に発電すれば、大量の電気を得ることができますが、それを都市まで持ってきて使う術がありません。仮に送電線を張り巡らせて、砂漠の電気を都市まで運んできても、発電のタイミングと電力消費のタイミングがずれるため、有効に消費できません。

 この問題を解決する切り札の1つと考えられているのが、水素です。自然エネルギーによって発電した電気を水素に変え、水素を保存・流通させることで、エネルギー循環社会を作ろうとする試みです。

 以下の図をご覧ください。

水素を使ったエネルギー循環社会(イメージ図)

出所:筆者作成

 自然エネルギーから得た電気で、水を電気分解すると、水素が得られます。その水素をエネルギー源とする、エネルギー循環社会を作ろうという考えです。水素の運搬・保存も簡単ではありませんが、電気を運んだり貯蔵したりするのに比べれば、容易です。

 今、水素流通インフラの整備のために、さまざまな企業が先行投資しています。将来は、低コストの水素流通インフラが実現すると予想しています。

 水素エネルギーを使う際、酸素と化学反応させます。そこで得られる電気を使います。それが、燃料電池といわれる発電システムです。そこで排ガスはいっさい出ず、水だけが排出されます。

 技術的に越えなければならないハードルはまだたくさんあり、実現まで紆余曲折があると思いますが、2040~2050年をめどにその技術革新・構造改革をやっていく方針を決める国が急速に増えており、今後急速に技術革新が進むと考えられます。株式市場でも、水素関連株が折に触れて、注目されるようになると思います。

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