ジャック・マーと習近平・李克強との関係

 ここからは、上記の問題提起にも出てきた、習近平、李克強両指導者とマー氏の連動状況をレビューしていきます。

 マー氏が作ったアリババは、2014年、ニューヨーク証券取引所に上場しました。当時、250億ドルという、当時史上最大のIPOとして話題を呼んだことは、記憶に新しいでしょう。

 ここで私が指摘したい経緯は、マー氏、アリババ社は、習近平政権発足(2012年秋~2013年春)後、本格的に、中国製の上場企業としてグローバルに発展するためのきっかけをつかんだという点です。

 私なりに解釈すれば、習近平政権とマー氏&アリババ社は、よい悪いかは別として、もはや運命共同体であるということです。

 マー氏にとって、習近平総書記は後ろ盾にも、足かせにもなり得る。常時は両方の要素が共存し、状況やテーマ次第では、どちらかに転がる。そんな関係性です。

 2014年10月31日、李克強首相が、中国共産党の権力の象徴・中枢である中南海にマー氏らを招待し、経済情勢をテーマに座談会を主催しました。その席で、マー氏は李首相に次のように報告しています。

「タオバオ(筆者注:アリババ社が運営するオンラインモール)には2.5万人の従業員しかいませんが、タオバオで店舗を開く900万の会社にサービスを行っています。その中で、アクティブストアは300万社以上。今年、タオバオが中国全体の社会消費小売総額に占める割合は10%を超える見込みです」

 これに対し、李首相は「900万社か。それは少なくとも1,000万以上の雇用をもたらす。それに、物流や宅配を含めれば、さらに多くなるな」と返しました。

 また、この座談会がマー氏の主導する「ダブルイレブン(W11)」(筆者注:11月11日、「独身を祝う日」)前夜だったこともあり、マー氏は李首相に、自らが「中国消費者の日」と定義づけたこの日のイベントについて説明。この日1日におけるタオバオでの販売額が300億元(約4,500億円)を突破する見込みだと誇った上で、「総理、これは伝統的なビジネスモデルでは考えられない場面ですよ」と踏み込むと、李首相は、「あなたは消費の時点というものを創造した!」とマー氏の功績とアリババの業績を称賛しました。

 勢いづいたマー氏は、李首相に対して、「私たち民営企業家は、政府からもっと信頼されることを望んでいるのですよ」とお願いすると、李首相は「今日、貴方をここに招待して座談しているという事実が、我々の信頼を代表しているではないか。民営企業家に対して、政府は信じるだけではなく、頼らなくてはならないほどだ!」と返している。

 党と企業家という文脈から見て、李克強とジャック・マーが持ちつ持たれつの、互いに互いを必要とする運命共同体の関係にある実態が見て取れるでしょう。

 次に、マー氏と習総書記との関係です。

 2015年9月、習総書記は米国を公式訪問。これに、中国の国有、民間を含めた15企業のトップが随行しました。

 マー氏は企業家訪米団の筆頭(ほかにはテンセント、百度、レノボ、中国工商銀行など)で、元米財務長官ヘンリー・ポールソン氏が主催した米中企業家座談会に招待され、アマゾン、アップル、マイクロソフト、IBM社らのトップと会談しています。

 そして同年12月、習総書記が古巣の浙江省烏鎮を視察。「インターネットの光」博覧会を訪れ、真っ先にアリババ社のブースにやってきました。そこに現れたマー氏自らが「ガイド」を務め、同社の商品やサービスを説明していました。

 また、2016年5月、習総書記は北京で「サイバーセキュリティと情報化」をテーマにした、政治的に最高レベルの座談会を開きましたが、そこにもマー氏が招待されていました。

 2017年1月10日、マー氏はニューヨークにあるトランプタワーを訪れ、間もなく米大統領に就任するトランプ氏と会談。その後、二人は並んで記者団の前に姿を現し、米国の中小企業がアリババ社のプラットフォームを通じて中国へのセールスを可能にすることで、米国で100万人の雇用を創出する計画について話し合ったと説明。トランプ氏はマー氏について次のように語っています。

「彼は、世界で最も偉大な起業家の1人だ。アメリカを愛し、そして、中国を愛している」