米国上場“阻止”から透ける中国当局の戦略

 この「特ダネ」記事を読みながら、私は2つの点を考えました。

 1点目は、米中の戦略的競争関係が、バイデン米政権になっても激化の一途をたどり、中国企業の活動に影響を及ぼしていること。特に現状、米中当局、特に中国側の米国側への不信から、高度な科学技術を駆使する企業の活動がほんろうされています。

 中国政府は、自国企業が米国市場に上場することで、米国政府の監視、監査下に置かれることを懸念しています。

 ニューヨーク証券取引所に上場するアリババ(BABA)や、ナスダックに上場する百度(BIDU)を含め、中国が国として重視するデータを扱う企業であればなおさらで、シマラヤの動向に対しても、当局は「経済安全保障」の観点からも、警戒を強めているのだと思います。

 と同時に、習近平(シー・ジンピン)体制下で、言論、信仰を含めた政治的自由への抑圧が高まる中、中国当局は、自らの懐にしまい込んでおきたいメディア、インターネット産業の上場先が、競争国である米国になることを、これまで以上に抑制したいと考えているのでしょう。

 2点目が、中国当局がそのような懸念を増大させている事態を、当事者としての企業は十二分に直視し、かつ、自らの身を守りながら収益を拡大させるという観点から、“中国の特色ある忖度(そんたく)”をしているという現状です。

 ロイター記事には、中国当局がシマラヤ社に「要求」とあります。

 私がこれまで中国当局と付き合ってきた経験と感覚によれば、政府の民間の企業や個人に対する圧力のかけ方はさまざまです。政府官僚が直接言ってくる場合もあれば、第三者を通じて伝えてくる場合もある。また、書面で送ってくる場合もあれば、対面でさりげなくほのめかすこともある。そして、「要求」する場合もあれば、「提案」する場合もある。企業の関連活動を停止に追い込むこともあれば、よく分からないまま、許可が下りないような場合もあるのです。

 ただ、これらは総じて「圧力」であり、中国の企業家や個人は、そうした多種多様な当局からの圧力を(1)敏感に感じ取り、(2)それが何を意味するかを判断し、(3)どう行動すべきかを決断する能力と感性に非常に長けているというのが私の経験値に基づいた見方です。

 彼ら・彼女らが神経を研ぎ澄ましている最大の要因は、やはり歴史を通じて、中国人が直面してきた、厳しい政治環境に見いだせます。

 情報統制がはびこり、常に政治的監視下にある、だからこそ自らの身を守るため、収益を拡大するために、情報収集や人脈構築にはものすごい労力と資金を投入する、という立ち回りです。

 一時、日本で流行した「メディアリテラシー」なんていう言葉は、中国人にとってはDNAに張り巡らされた血液のようなもの。私は、中国人の最も長けた能力がネットワーキングとインテリジェンスだと考えてきましたが、監視・統制・抑圧が常態化、構造化した、「一寸先は闇であり、死」が当たり前の社会で生きてきたからこその処世術なのだといえるでしょう。