ジャック・マーも例外ではない

 当局からの「圧力」に対して、前述した(1)、(2)、(3)を行使するという意味で言えば、本レポートでその動向を扱ってきたジャック・マー(馬雲)氏も例外ではありません。

 というより、「最先端」を行っています。自らにとって「お上」に当たる中国共産党の政治的立場や戦略的意向は、マー氏、および同氏が創始したアリババ社が生き残り、育っていく上で、最も切実に意識、重視、そして警戒しなければならない対象にほかならないのです。

 最近、アリババ社が独禁法違反で罰金を与えられたり、傘下にあるアント・フィナンシャル社の上海、香港同時IPOが延期になったりしたこともあり、マー氏と共産党指導部との間の関係についてさまざまな憶測が飛び交ってきました。

 中国市場に投資してきた機関投資家から、時折、私が受ける質問には以下のようなものがあります。

「習近平とジャック・マーの関係はどうなのですか?」

「ジャック・マーはニューヨークに飛んで、習近平に代わってトランプと会談し、米中関係を安定させようと尽力したのに、習近平はそんなマーを見捨てたのですか?」

「李克強(リー・カーチャン)はジャック・マーをどう見ているのですか?」

「習近平とジャック・マーの関係が悪くなったのなら、同じように習近平との関係がギクシャクしている李克強とマーが接近しているのではないですか?」

 これらの疑問、理解できなくはありません。非常に複雑かつ特殊な「中国政治経済学」を理解する上で、中国における政治と経済の関係、政府と市場の関係、党と企業家の関係を現実的に解釈する上で、重要な問題提起であることに疑いはありません。

 マー氏と党の関係性を整理することは、中国における政治と経済、政府と市場、党と企業家の関係を理解すること、言い換えれば、中国という独特な政治体制下におけるマーケットの動向と本質をあぶりだす作業にほかならないのです。