最後に、約7年、35回の協議を経て昨年12月末にまとまり、李―ドラギ会談で言及された中国・EU投資協定についてです。字数の関係上、詳細は筆を改めますが、中国共産党指導部の同協定に対する立場も、中国の対イタリア政策と同質のものです。

 同協定は、市場参加、公平な競争原則、知的財産権の保護などを含む、相互投資を促進するためのルールを定めた枠組みですが、基本的に、EU諸国が中国に投資する過程での処遇を改善する、言い換えれば、EU諸国の中国マーケットへの不安や懸念を拭うことに重点が置かれていて、中国よりも、EUにとって有利な内容となっています。

 もちろん、中国側が善意で妥協したわけでは全くなく、それによって、EU諸国の対中投資が促進し、内需拡大や産業構造の最適化に貢献し、中国にとっての国策である改革開放が進んでいることを内外に証明できると考えているからこその、戦略的妥協にほかなりません。

 そう考える背景には、EU全体に、経済といううまみを享受させることで、中国の核心的利益を尊重させるという意図が透けて見えます。

 目下、新疆ウイグル問題が引き金となり、欧州議会は投資協定の承認プロセスを停止させていますが、中国側が投資協定の最終妥結のために、新疆ウイグル問題という核心的利益で妥協することは考えられないということです。この点については、中国国家発展改革委員会や商務部に勤務する複数の関係者が私に証言しています。

 このように、中国と欧州の関係は、経済と政治が複雑に絡み合う、私の理解で言えば、戦略性が増すものになっています。経済で政治を動かしたい中国。そんな中国が、これまで以上に目を付け、取り込みたいとする標的がイタリアだということです。中国と欧州の関係や連動については、引き続き注視し、本連載でも報告していきたいと思います。