中国がイタリアを取り込めると考える理由

 中国がイタリアを取り込める、あるいは、ドイツやフランスと比べて、取り込みやすいと考える理由の一つが、経済に見出せます。

 2019年3月、習近平国家主席がイタリアを訪問し、当時のジュゼッペ・コンテ首相と会談をした際に、中国が習近平政権の目玉政策として、国家戦略レベルで推し進める「一帯一路」構想に関する覚書を締結しました。G7加盟国として初めてのことです。

 李首相が「全面的、戦略的パートナーシップ」と定義するように、中国は、イタリアが中国の国家戦略に理解を示し、そこに便乗しようとしていると捉えているということです。

 覚書の中には、香港に上場する中国の国有企業で、インフラ建設大手の中国交通建設(1800, HK)がジェノバ西リグリア港湾ネットワーク管理局や東アドリア港湾ネットワーク管理局と結んだ協定も含まれています。

 中国の、しかも共産党の戦略的意思を受けて動く国有企業がイタリア海運の要衝における港湾事業に参画するということは、地政学的にも大きな意味を持ちます。単なるビジネス投資にとどまりません。習主席の訪問を武器に、自国の国有企業に同プロジェクトを請け負わせたのは、中国の対欧州国家戦略に立脚する動きです。

 コンテ前首相は、中国企業によるイタリアへの投資を歓迎する意思を習主席に示しましたが、近年低迷しているイタリア経済(同国の実質GDP[国内総生産]成長率[前年比]は、2017年1.68%増、2018年0.86%増、2019年0.01%増)の復興につなげようという意図が見受けられます。

 JETRO作成の資料によれば、2018年、イタリアの貿易相手国として中国は5番目で、中国の貿易相手国としてイタリアは24番目と非対称です。中国の貿易全体に占める割合は1.2%に過ぎませんが、中国は上記のような動機から、イタリアへの戦略的投資を強化しているのです。

 経済力を武器に、中国がイタリア経済復興にとっての「救世主」となることで、イタリアが新疆ウイグルや香港を含めた中国の「核心的利益」を尊重する、すなわち内政干渉させないこと、そして、そういう国家としての立場を、欧州の大国として、EU、G7、さらに今年、議長国を務めるG20といった舞台で存分に発揮してもらうこと、それが中国共産党の真の狙いです。

 そういう党指導部の意思を、前出の中国交通建設を含めた、中国の国有企業や民間企業は十分に理解しています。要するに、党指導部がそのような戦略的見地から対イタリア政策を位置付ける中で、イタリアに進出、投資するのは「政治的に正しい」ということです。

 コロナ禍の現状では不確実性は拭えませんが、今後、中国からイタリアへのお金、モノ、ヒト、そして情報の流れがあからさまに増えていく趨勢(すうせい)は必至だと私は考えています。