イタリアは、李首相が言及したように「EUの重要な構成員」であると同時に、G7の加盟国でもあります。要するに、中国はEUとG7による「内政干渉」に加担しているイタリアに不満を持っているということです。

 細かい点ですが、中国理解を深めるという意味で、「不満」に関して一つ解説します。

 中国外交部のリリースには、李首相が「応約」、すなわち、相手国の要請に応じる形で、ドラギ首相と会談したと書かれています。この「応約」(インユエ)という中国語の文言は、中国が他国と外交関係を管理する中で、相手国に対して不満を持っている状態を示唆します。

 そんな状況下でも、「相手国が望むなら会談に応じてあげてもいい」という、ある意味“上から目線”の、強硬的な姿勢を示すものです。米国や日本との関係でもしばしば使われ、国内の政界や世論で生じ得る反対勢力からの批判をかわすという目的も含まれています。

 不満を抱いているにもかかわらず、李首相がドラギ首相との会談に応じたのには、理由があります。端的に言えば、イタリアを取り込み、中国側に寝返らせたいということです。

 EUには27カ国が加盟しており、その中には、例えばギリシャやポーランドなど、中国が影響力を発揮しやすい国も含まれますが、EUの意思や行動を変えるという意味では、これらの国は小さすぎます。また、EUだけでなく、G7加盟国であることが望ましい。

 英国離脱後、EUとG7に同時に加盟しているのは、ドイツ、フランス、イタリアの3カ国だけ。この中で、相手を寝返らせる、具体的に言えば、EUやG7が、中国が「内政干渉」に当たるとする政策を取る際に、否決権を発動させる上で、最も可能性があると考えるのがイタリアということです。

 しかも、李―ドラギ会談でも言及されているように、イタリアは2021年のG20議長国。G20は中国が国際的にリーダーシップや影響力を発揮しようとする際に、戦略的に重視する外交舞台です。

 中国は、G7ではなく、G20こそが、国際ルールを作る上で最適なプラットフォームだと訴えたい。このタイミングでイタリアに接近し、一連のG20会議におけるアジェンダセッティング(議題設定)プロセスにおいて、中国に有利な言動を取ってもらえるようにという、ねらいがあります。

 具体的には、G20が中国の政策や言動を名指しで批判する舞台と化さないように、いまから取り込もうという戦略的意思が見て取れるのです。そこには、目下、中国が外交関係を最も緊張させている米国をけん制する、西側陣営が一枚岩にならないように、楔(くさび)を打ち込むという目的も含まれます。

 G20首脳会議は10月末、3カ月後には、北京冬季五輪が控えています。仮に、新疆ウイグル問題、香港問題といった人権問題が、昨今のEUやG7だけでなく、G20でも批判と制裁の対象となり、その流れで、北京五輪への参加ボイコットが集団的に発生した場合、習近平(シー・ジンピン)政権の正統性や求心力が国内外で失墜するという政治リスクをはらんでいる。

 そのような、2021年から2022年にかけて想定し得る最悪の事態を避けるために、イタリアを取り込もうとしているわけです。