5月に注目したい新興株の動き

「セルインメイ」の相場格言が有名で、なんとなく崩れそうなイメージがある5月。とはいえ、マザーズを取り巻く需給環境だけでいえば、5月は悪くなそうなイメージを描けます。理由は(1)高値期日の通過、(2)IPOの完全空白、の2点です。

 マザーズの超絶コロナラリーのピークは昨年10月14日、マザーズ指数で1,368ポイントが高値でした。この高値を付けにいく過程で何があったかといえば、「個人投資家による信用でのマザーズ株強烈買い越し」でした。昨年10月第2週のマザーズにおける個人の信用買い越し額301億円は、データをさかのぼれる限りで過去最大。その後にピークアウトしたため、(指数ベースでいえば)当時膨らんだ買い残は含み損ばかりといえます。この分の決済期限6カ月を4月中旬に通過したため、信用買い残のロスカットによる売り圧力は和らいだと予想されます。

 そして、IPOの完全空白。現時点の承認ベースでも次のIPOは6月2日、5月はIPOがゼロというスケジュールです。IPOのセカンダリー好調が続けば、個人投資家の資金回転が効き、新興株市場を活性化させます。ただ、今年は初値形成後に崩れる銘柄の比率が高くなっています。これら直近IPO株は、いくら下げても、上場の翌月末までマザーズ指数に反映されません。ですので、そこそこ堅調に見せているマザーズ指数ですが、指数が示す以上に個人の評価損益率はIPOを通じて悪化しているはず。疲弊している状況で、次から次に出てくるIPOでさらに疲弊していたことを思えば、IPO空白は需給面でポジティブ。安くなっている直近IPO株をもう一度物色するタイミングもあるかもしれませんし、単純に既存のマザーズ銘柄の流動性にとってもプラスと考えられます。

 ただし、東証1部の主力グロース株も含め、“ガイダンスリスク”に神経質となっていますよね。需給環境は悪くないけど、それだけで決算発表シーズンを乗り越えられるか? といえば…さすがに無理でしょう。コロナ禍の超絶ラリーが1年続き、一般的な尺度(予想PERなど)では説明が付かないような高バリュエーション株が多くなっています。そうした銘柄が、コロナ特需の反動的なガイダンス(減益や伸び率鈍化など)を出したらどうなるか?(現時点では出尽くし売りが多い)を警戒するのは当然だと思います。

 マザーズ企業の決算発表は、GW明け後の5月第2週がラッシュとなります。とくに12日(22社)、13日(53社)、14日(123社)の3日間に集中。この中で、ガイダンスを示す本決算発表では、12日のAIinside、13日の弁護士コム、JMDC、QDレーザ、14日のミンカブ、JTOWERなどが挙げられます。発表の手前に警戒で下げるのか? 発表を見てから順方向に反応するのか? 選別の動きがどこで出るかに目配りしたいところです。

 そして最後に、これから非常に重要視されそうなのが、AIinsideの件です。4月ラストに急落した理由は、誰も予想できなかった同社サービスの「大口解約」でした。同社のようなSaasビジネスの銘柄は、「今は利益水準が小さくても、売上さえ伸びれば成長できる」と信じられてきました。それは、チャーンレート(解約率)が極めて低いため。今開示されているようなチャーンレートであれば、時間とともに利益が伸びる…これに大きな疑問符を投げかけた事例になりました。

 コロナをきっかけに、DX化の波が来ました。「DX関連のサービスを導入してみよう」という中小企業が急増したのも、ちょうど1年前くらいからです。月額でいえばリーズナブルなサービスが多く、最初1年は無料といった契約もあって、試しに導入した企業は多いはず。そして、1年サービスを利用してみた結果、「便利だけど、もういいかな」というケースが多いのではないか?と考えさせられたわけです。今回の解約事例のように、最低契約期間1年の設定が多い場合、契約期間満了が続々と出始めるのが5月以降と考えられます。

 チャーンレート1%未満をうたい文句に、成長イメージを会社資料に掲載する日本のグロース株は多いです。なぜなら、そういう資料がはやったから…。これを前提に超高バリュエーションが付いたグロース株が多いのも事実。AIinsideのOCR(手書きの文字などをデジタル文字コードに変換するサービス)ならではなのか、それ以外のサービスにも似たような解約が(大なり小なり)発生するのか、決算資料でチェーンレートの変化をチェックすることが大事となりそうです。