4月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 4月の月間騰落率は、日経平均株価▲1.3%、TOPIX(東証株価指数)▲2.9%、新興株市場では日経ジャスダック平均▲1.1%で、これら3指数は6カ月ぶりに月間マイナス。東証マザーズ指数もマイナスながら、月間騰落率▲0.1%と、東証1部より表面上はマシに見える結果でした。ただ、東証マザーズのみ3月もマイナスだったなど、年初来で他市場をアンダーパフォームしてきたことを思い返せば、マザーズもパッとせず…といったところでしょうか。

 マザーズ指数だけ見ると、4月はもみ合い商状。水準的には1,200ポイントのやや上での推移でした。月足ベースの高値(1,257.16)/安値(1,201.77)の値幅は50.39ポイントで、2019年12月以来の狭い値幅。ポジティブ思考であれば「1,200ポイントを下値支持として底堅い」になるのでしょうが、実際は「覇気がない」といったところでした。

 というのが、肝心要の流動性(売買代金)の低下が止まりません(東証1部も慢性的に薄商いでしたが)。4月は、マザーズ市場の1日当たり売買代金で2,000億円を上回る日がゼロ…これ、2020年3月以来のことです。昨年4月に最初の緊急事態宣言が発令され、その後にマザーズ株の超絶ラリーが始まりました。その手前水準に流動性が低下しているわけです。コロナ禍と相性が良かったマザーズ市場(ウィズコロナ株の比率が高いため)…4月は1都3府県で緊急事態宣言が再発動したのですが、3度目の正直なのか、マザーズが活気付く雰囲気にならず…。

 その理由としては、5月中旬にピークを迎えるマザーズの決算発表待ちということがあるわけですが、「コロナラリー開始から1年経過」する時期ということもあり、“株価には、もろもろ織り込まれている”との認識が広がってきたことも大きそうです。4月初旬に決算発表したのが靴のEC大手ロコンド。巣ごもり特需で前期業績は劇的に伸びたものの、今2月期のガイダンスが最終利益は、反動で減益見通しでした。これに対する発表翌日は、ストップ安売り気配でした。信用買い残の多かった銘柄とはいえ、「このガイダンスで、ここまで売られるのか?」という驚きを広げた決算反応。東証1部でも、安川電機、日本電産、エムスリーなど大型ハイテクグロース株の決算発表がことごとく“出尽くし売り”に。1年かけて高バリュエーション化した大中小、いずれのグロース株に対しても、バブルとは言わずとも「フロス(Froth)=小さな泡」が意識される…そんな1カ月でした。

4月の売買代金ランキング(人気株)

 マザーズ市場の1日当たり売買代金2,000億円超え日数が、4月はゼロ。これは、コロナラリーが始まる直前の2020年3月以来でした。4月の売買代金トップ銘柄のBASEも87億円で、25日移動平均売買代金が100億円を超えた銘柄もゼロに。3月は2月上場のQDレーザが100億円超でしたが、同社も4月は59億円とほぼ半減しています。その理由は、(良くも悪くも)短期勢にIPO(株式の新規公開)が人気のため。4月は12社のIPOがありましたが、オキサイド、サイバートラスト、ステラファーマ、ビジョナルといったマザーズIPOの短期勝負に資金が向かい、既存のマザーズ銘柄の流動性が低下するという毎度の展開に。

 さらに、オキサイドを除けば、セカンダリーのパフォーマンスも軒並み低調。その理由になったといえるのが、“信用規制のルール変更”でした。4月に入って直近上場のシキノハイテック、ベビーカレンダーに信用規制(増し担保)がかかり話題となりました。信用規制というのは、「3日連続で25日移動平均乖離(かいり)30%以上」といった基準で適用されます。上場直後で25日移動平均線のないIPOは枠外でしたが、東証が3月にルール変更。新ルールによれば、(1)日々公表銘柄に指定、(2)ストップ高で終了、(3)その日の売買高が上場株式数以上、といった条件を満たすと、IPOでも信用規制対象になることが判明。異常な盛り上がりを見せる小型IPOに関しては、ストップ高まで追い駆けると危険、なる新しいリスクが浮上しました。

市場 コード 銘柄名 4月末
終値
時価総額
(億円)
売買代金
25日移動平均値
(億円)
月間
騰落率
東証マザーズ 4477 BASE 1,823 2,001 87 14%
東証マザーズ 7342 ウェルスナビ 4,195 1,913 70 16%
東証マザーズ 6613 QDレーザ 1,579 546 59 18%
東証マザーズ 7363 ベビーカレン 9,010 77 59 1%
ジャスダック 2667 イメージワン 870 76 58 34%
ジャスダック 6614 シキノハイテック 2,029 88 51 -4%
東証マザーズ 4385 メルカリ 5,400 8,513 45 8%
東証マザーズ 4488 AIinside 30,300 1,186 43 -15%
ジャスダック 4582 シンバイオ 1,314 503 42 16%
東証マザーズ 4934 Pアンチエイジ 11,930 1,040 39 -2%
東証マザーズ 4478 フリー 9,280 5,042 34 -1%
東証マザーズ 4563 アンジェス 994 1,390 29 -7%
東証マザーズ 4165 プレイド 4,455 1,686 28 22%
東証マザーズ 4436 ミンカブ 3,775 522 23 -14%
東証マザーズ 3994 マネフォワ-ド 5,850 2,807 22 40%
東証マザーズ 4176 ココナラ 2,037 456 22 -1%
東証マザーズ 4485 JTOWER 7,860 1,637 21 -8%
東証マザーズ 4425 Kudan 5,310 408 20 13%
東証マザーズ 4475 HENNGE 7,800 1,264 20 6%
ジャスダック 6890 フェローテック 2,452 915 19 11%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 QDレーザ(6613・東証マザーズ)

 人気化した2月IPO銘柄でしたが、新しく登場するIPOへの目移りで短期マネーが離散。流動性が低下した3月後半以降、株価水準を切り下げながら高値圏で作ったシコリの整理が続きました。

 そんな同社株の人気再燃のきっかけになったのが、13日付の一部国内大手証券による買い推奨レポートでした。投資判断「1」、目標株価1,750円での新規カバレッジを受け、同日は前日比21%高、出来高は前日の約7倍に急増しました。同レポートによれば、アイウエアの拡販本格化で黒字化への確度が高まっているほか、シリコンフォトニクスのポテンシャルに注目していると。

2 ベビーカレンダー(7363・東証マザーズ)

 信用規制の新基準が導入(今年3月~)されて以降、直近IPO株の信用規制発動銘柄としてはシキノハイテックに次いで2例目に。6日より東証が信用規制を実施すると発表し、6日は23%安でストップ安となりました。出産・育児関連サイトを運営するIPO銘柄が、政府の「子ども庁」創設検討の報道をきっかけとして(タイミング良く)テーマ株に浮上。小型、値がさ、かつ値動き良好なIPO株として人気化したわけですが、5日の信用取引による新規買い比率が6割を超えていたようで…。

 信用規制の発動を決めた5日を振り返ると、(1)日々公表銘柄に指定されていた、(2)ストップ高で終了した、(3)売買高137万5,600株は上場株数82万9,600株を上回っていた―いずれも、判定基準を満たしていたことがわかります。

3 イメージ ワン(2667・ジャスダック)

 動意付く直前の時価総額が50億円台だったこともあり、材料きっかけに短期間で驚くような急騰劇を演じました。材料が出る前日12日の終値は650円、13~20日に6連騰し、20日に付けた昨年来高値は1,787円でした(わずか6営業日で最大2.8倍に!)。ただし…買い上げていた主体は「個人の信用買い組」。16日に信用規制が発動すると、23日には委託保証金率90%以上(うち現金60%以上)という信用規制の再強化まで発動。揺り戻しは大きく、壮絶な“往って来い”に。

 材料になったのが、13日に同社が、福島第一原発ALPS(多核種除去設備)処理水を想定したトリチウム分離・濃縮実証実験結果に関する記者会見を23日に実施すると発表したこと。東京電力福島第一原発に溜まるALPS処理水を、政府が海洋放出することを決めた直後だったこともあり、短期筋が買い材料視。ただ、信用規制の発動状況を振り返っても、この材料に騒いでいたのは個人投資家だけだったのは確実なようで…。

4 シキノハイテック(6614・ジャスダック)

 信用規制の新基準が導入(今年3月~)されて以降、直近IPO株の信用規制発動銘柄として第1号になったのが同社。1日から信用規制を実施すると東証が発表したのが、3月31日。この日を振り返ると、(1)(3月29日から)日々公表銘柄に指定されていた、(2)ストップ高で終了した、(3)売買高1,160万4,800株は上場株数432万7,000株を上回っていた―いずれも、判定基準を満たしていたことがわかります。

 信用規制が水を差して株価は調整しましたが、東証が13日売買分から信用規制を解除することを決定。衝撃の展開になったのが、規制解除の13日でした。規制解除で株価は急騰したのですが、またしても盛り上がり過ぎ…同日もストップ高、そして売買高は上場株数を上回る953万株を記録しました。結果、14日より信用規制の再発動が決定。東証は機械的に判定しているため、対策としては「危ないときはストップ高に並ばない」が鉄則といえそうです。

5 AIinside(4488・東証マザーズ) 

 月末30日、ストップ安売り気配のまま、大量の売り注文を残して終了しました。前週末時点の信用買い残が金額ベースで140億円と、マザーズ市場でもトップ級の人気銘柄。しかも、株価は昨年11月に9万円台を付けていた、マザーズ屈指の値がさ株でもあります。これほどの値がさのマザーズ人気株のストップ安は、5月の新興株市場に尾を引く可能性もありそうです。

 きっかけは、大口OEM(相手先ブランド名製造)パートナーであるNTT西日本から、大量のライセンス不更新通知を受けたという28日の発表でした。NTT西日本に許諾していたライセンス数は3月末時点で9,284件あったようですが、そのうち5~6月の不更新見込み件数が7,636件あると。この分をNTT西日本が解約すると決めたことで、来期計上を見込んでいたリカーリング売上21.3億円のうち、17.6億円が消滅するようです。解約率の低いビジネスモデルにより、高い売上成長だけを織り込んで超高バリュエーション化していた同社株。それだけに、前提の崩壊がもたらす影響は甚大といえそうです。

4月の株価値上がり率ランキング

 月間で2倍化した銘柄はなく、1週間程度続くようなテーマ株物色も起きなかったのが4月。そんな4月に大きく上昇した銘柄の特徴でいえば、時価総額100億円未満の小型新興株が14銘柄と大半を占めることくらい。その中では、月間騰落率40%を記録したマネーフォワードが目を引きます。第1四半期の決算発表を順調な内容で通過したわけですが、想像以上に強い反応となりました。 

 この4月といえば、マザーズでいえばロコンドなど、コロナ禍特需で好業績だった銘柄のガイダンス(今期の期初計画)に対する失望売りが目立ちました。いわゆる“ガイダンスリスク”を警戒するムードが買い手控え要因にもなるなか、市場予想を上回るような好業績を発表した銘柄に対し、「決算通過」という安心感も手伝った資金流入が起きていたように見えます。実際、ランクイン銘柄でも、マネーフォワードのほか、ウォンテッドリー、メディカルネット、AmidAHDなど業績材料で大きく上昇した銘柄が散見されました。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
4月末
終値
前月末
終値価格
時価総額
(億円)
ジャスダック 7426 山 大 70% 1,285 755 15
東証マザーズ 3991 ウォンテッドリ 61% 3,070 1,903 288
ジャスダック 9812 テーオーHD 54% 423 275 38
東証マザーズ 6031 サイジニア 51% 1,619 1,074 34
東証マザーズ 3645 メディカネット 48% 1,564 1,059 84
ジャスダック 4657 環境管理 43% 672 469 31
東証マザーズ 3994 マネフォワ-ド 40% 5,850 4,180 2,807
東証マザーズ 7671 AmidAHD 38% 1,567 1,133 33
ジャスダック 6063 EAJ 35% 1,480 1,094 37
ジャスダック 7826 フルヤ金属 34% 9,460 7,040 687
ジャスダック 2667 イメージワン 34% 870 649 76
東証マザーズ 6085 アーキテクツSJ 34% 945 705 16
東証マザーズ 3237 イントランス 34% 91 68 34
東証マザーズ 7092 FFJ 32% 4,650 3,530 725
ジャスダック 4355 ロングライフ 31% 389 297 44
ジャスダック 7175 今村証券 30% 2,275 1,746 61
東証マザーズ 3624 アクセルマーク 30% 515 397 35
東証マザーズ 3628 データHR 28% 5,400 4,225 193
ジャスダック 2332 クエスト 26% 1,822 1,446 100
ジャスダック 7711 助川電 26% 893 710 52

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 ウォンテッドリー(3991・東証マザーズ)

 14日、今2021年8月期の通期予想の上方修正を発表しました。企業の採用予算縮小の影響を考慮し、大幅な最終減益見通しを示していた同社。大きな見通し変化はないものの、最終利益の従来予想(600万円~1億円)の下限のみ2,500万円に引上げ。また、売上高については、従来予想(27億円~31億円)を上回る33億円に増額しています。

 大きなサプライズはなかったように思いますが、株価は想像以上のポジティブ反応に。この上方修正と、発表後の急騰を含む4月第2週の週末16日。この日の信用買い残は4万200株で、前週末の2万2,800株と比べ急増しています。業績材料で急騰したわけですが、機関投資家の買いというより、短期の個人投資家の買いがメインだったといえそうです。

2 メディカルネット(3645・東証マザーズ)

 9日に発表した第3四半期決算では、営業利益が前年同期比2.5倍の2.8億円に。通期予想は3億円ですので、第3四半期時点の進ちょく率は9割を超えています。メディア・プラットフォーム事業、歯医者の支援事業とも好調に推移しているようで、通期予想の大幅な上振れも有力視されています。

 コロナ禍で業績が急伸した一方、時価総額は小さく、バリュエーションも高くなかった同社株。3カ月前の第2四半期決算も抜群でしたが、株価反応が良かったのは今回の決算通過後でした。株価が跳ねるタイミングは読めないため、こういう好業績小型株は長期保有向きということをよく表しています。なお、5月末を基準日とした株式2分割を発表。業績で株価が上向いたタイミングでの発表は絶妙、まさに「鉄は熱いうちに打て」でした。

3 マネーフォワード(3994・東証マザーズ)

 決算通過で、想像以上に株価を切り上げたマザーズの主力グロース株。4月の月間40%高で、時価総額はメルカリ、フリーに次ぐマザーズ時価総額3位に浮上しました。同社が13日に発表した第1四半期決算では、営業損益が前年同期比で黒字に転換。また、SaaSビジネスのグロース株に求められる売上成長についても、前年同期比45%増と納得の伸びを示しました。

 この好決算を受け、ブローカー評価も切り上がっています。一部国内証券では、19日付で目標株価を4,850円から6,100円へ大幅引き上げ。法人向けサービスで、中堅企業の顧客獲得拡大や個人事業主の獲得が再加速し、成長に向けた施策が成果をあげている点などを評価しています。信用買い残を減らしながら株価が大きく上昇しているため、上値を買い上がった主体は機関投資家と見て間違いないでしょう。

4 AmidAHD(7671・東証マザーズ)

 時価総額20億円台の超小型株が、業績サプライズきっかけに急騰。同社の主力は、印鑑のネット通販(「ハンコヤドットコム」)のため、コロナ禍で生まれた潮流である“脱ハンコ”が逆風でした。脱ハンコの流れに逆らって成長するイメージを描きにくく、敬遠していた投資家が多かったことも株価インパクトを大きくしたように思います。

 同社は15日、今2021年6月期の業績予想を大幅上方修正(営業利益は従来の2.5億円→4億円)。印鑑が主力商材とはいえ、巣ごもり需要の恩恵はがっちり手に入れていたようです。業績予想の増額に加え、大幅増配、さらには6月末を基準日といった株式2分割と株主還元策の合わせ技。発表翌日16日はストップ高買い気配で終了、19日に付けた高値1,800円まで水準を切り上げる場面もありました。なお、4月高値1,800円でも予想PER(株価収益率)は18倍以下、脱ハンコに対する根深い警戒でバリュエーションは低く抑えられているようです。

5 フルヤ金属(7826・ジャスダック)

 2008年7月に付けていた上場来高値1万200円に顔合わせ。およそ13年ぶりの高株価を取り戻したきっかけは、業績予想の大幅増額でした。同社は15日、今2021年6月期の最終利益を、前期比ほぼ2倍の50億円(従来予想は29億円)に上方修正。貴金属相場の強含みと、イリジウム製品の需要増による増収効果が理由のようです。

 株価が大台1万円台でも、予想PERは13倍台と割安感があります。好決算を受け、翌16日には一部国内証券が、投資判断を「B」から「A」に一段引き上げ。足元で半導体用センサー需要の高まりなど好材料も多いため、短期収益の変動以外にも目を向けるべき要素は豊富だと指摘しています。

5月に注目したい新興株の動き

「セルインメイ」の相場格言が有名で、なんとなく崩れそうなイメージがある5月。とはいえ、マザーズを取り巻く需給環境だけでいえば、5月は悪くなそうなイメージを描けます。理由は(1)高値期日の通過、(2)IPOの完全空白、の2点です。

 マザーズの超絶コロナラリーのピークは昨年10月14日、マザーズ指数で1,368ポイントが高値でした。この高値を付けにいく過程で何があったかといえば、「個人投資家による信用でのマザーズ株強烈買い越し」でした。昨年10月第2週のマザーズにおける個人の信用買い越し額301億円は、データをさかのぼれる限りで過去最大。その後にピークアウトしたため、(指数ベースでいえば)当時膨らんだ買い残は含み損ばかりといえます。この分の決済期限6カ月を4月中旬に通過したため、信用買い残のロスカットによる売り圧力は和らいだと予想されます。

 そして、IPOの完全空白。現時点の承認ベースでも次のIPOは6月2日、5月はIPOがゼロというスケジュールです。IPOのセカンダリー好調が続けば、個人投資家の資金回転が効き、新興株市場を活性化させます。ただ、今年は初値形成後に崩れる銘柄の比率が高くなっています。これら直近IPO株は、いくら下げても、上場の翌月末までマザーズ指数に反映されません。ですので、そこそこ堅調に見せているマザーズ指数ですが、指数が示す以上に個人の評価損益率はIPOを通じて悪化しているはず。疲弊している状況で、次から次に出てくるIPOでさらに疲弊していたことを思えば、IPO空白は需給面でポジティブ。安くなっている直近IPO株をもう一度物色するタイミングもあるかもしれませんし、単純に既存のマザーズ銘柄の流動性にとってもプラスと考えられます。

 ただし、東証1部の主力グロース株も含め、“ガイダンスリスク”に神経質となっていますよね。需給環境は悪くないけど、それだけで決算発表シーズンを乗り越えられるか? といえば…さすがに無理でしょう。コロナ禍の超絶ラリーが1年続き、一般的な尺度(予想PERなど)では説明が付かないような高バリュエーション株が多くなっています。そうした銘柄が、コロナ特需の反動的なガイダンス(減益や伸び率鈍化など)を出したらどうなるか?(現時点では出尽くし売りが多い)を警戒するのは当然だと思います。

 マザーズ企業の決算発表は、GW明け後の5月第2週がラッシュとなります。とくに12日(22社)、13日(53社)、14日(123社)の3日間に集中。この中で、ガイダンスを示す本決算発表では、12日のAIinside、13日の弁護士コム、JMDC、QDレーザ、14日のミンカブ、JTOWERなどが挙げられます。発表の手前に警戒で下げるのか? 発表を見てから順方向に反応するのか? 選別の動きがどこで出るかに目配りしたいところです。

 そして最後に、これから非常に重要視されそうなのが、AIinsideの件です。4月ラストに急落した理由は、誰も予想できなかった同社サービスの「大口解約」でした。同社のようなSaasビジネスの銘柄は、「今は利益水準が小さくても、売上さえ伸びれば成長できる」と信じられてきました。それは、チャーンレート(解約率)が極めて低いため。今開示されているようなチャーンレートであれば、時間とともに利益が伸びる…これに大きな疑問符を投げかけた事例になりました。

 コロナをきっかけに、DX化の波が来ました。「DX関連のサービスを導入してみよう」という中小企業が急増したのも、ちょうど1年前くらいからです。月額でいえばリーズナブルなサービスが多く、最初1年は無料といった契約もあって、試しに導入した企業は多いはず。そして、1年サービスを利用してみた結果、「便利だけど、もういいかな」というケースが多いのではないか?と考えさせられたわけです。今回の解約事例のように、最低契約期間1年の設定が多い場合、契約期間満了が続々と出始めるのが5月以降と考えられます。

 チャーンレート1%未満をうたい文句に、成長イメージを会社資料に掲載する日本のグロース株は多いです。なぜなら、そういう資料がはやったから…。これを前提に超高バリュエーションが付いたグロース株が多いのも事実。AIinsideのOCR(手書きの文字などをデジタル文字コードに変換するサービス)ならではなのか、それ以外のサービスにも似たような解約が(大なり小なり)発生するのか、決算資料でチェーンレートの変化をチェックすることが大事となりそうです。