米中対立は、人類社会の形態すら劣化させかねない最大のリスク

 最後に、米中関係について扱いたいと思います。

 窪田真之楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジストも指摘するように、バイデン政権になってもトランプ政権で顕在化した米中対立の世界経済へのダメージは、新型コロナよりも深刻で、私自身、その地政学、戦略リスクは根源的であり、長期化すると考えます。

 トランプ政権で勃発した貿易戦争や、米国の国家安全保障にとって脅威となり得る中国企業への制裁、米中企業間の取引停止などに関しては、バイデン政権として現在慎重に検証作業をしている最中であり、私自身は、通商、ハイテク、科学技術、ビジネス分野、そして研究者やジャーナリストを含めた人的往来に関しては、トランプ政権時ほどのデカップリング(切り離し)は起こらないと予測しています。経済レベルでの対話や交渉は進んでいくでしょう。

 一方で、香港、新疆ウイグル自治区で懸念されている人権問題では、これらが米中双方の「核心的利益」に直結する事情もあり、お互い一歩も引かない、歩み寄りの兆候と空間を全く見いだせない状況が続いています。

 バイデン政権で外交を統括するアントニー・ブリンケン国務長官は、新疆ウイグル自治区で発生している中国共産党のウイグル族への強圧的政策を「ジェノサイド」(民族への集団殺戮)と定義づけています。中国共産党はこれに猛反発しており、米国側の認識や声明は全くの誤認、ねつ造だと断言してきました。

 3月18~19日、米アラスカ州アンカレッジにて、バイデン政権発足後初めて対面形式で開催された米中ハイレベル戦略対話前夜、米国政府は、昨年成立した「香港自治法」に基づき、中国と香港の当局者ら24人を新たに制裁対象とすることを発表。同対話冒頭における、中国側代表の楊潔チ(ヤン・ジエチー)政治局委員の猛烈な対米非難を招く引き金の一つとなりました。

 言うまでもなく米国側の措置は、3月上旬、中国共産党が開催した全人代(全国人民代表大会)での香港選挙制度の見直しを通じて、立法会を含めた統治機構から民主派を実質排除し、一国二制度をより一層有名無実化する措置を取ったことに対するレスポンスだと言えますが、両国間の溝は深まるばかりです。