コロナ対策に伴う景気回復への自信とインフレリスクの台頭
政治任命で政権入りしたバイデン大統領を支える複数のスタッフと話をする限り、バイデン大統領は、まずは来年行われる中間選挙において、民主党がさらに議席を伸ばし、政権運営を有利に進めるべく、目に見える成果を残すことが急務と意気込んでいるそうです。上記で描写した新型コロナ対策がその最たる分野ですが、それに加えて経済再生です。
3月に入り、1.9兆ドル(約200兆円)規模の新型コロナウイルス経済対策法案にバイデン大統領が署名しました。家計を支援する観点から、1人当たり最大1,400ドルの現金給付を発表するなど、財政出動による大規模な景気刺激策に打って出ています。
昨年、米国の実質GDP(国内総生産)成長率は、新型コロナ感染拡大の影響を受け、前年比マイナス3.5%となり、リーマン・ショック後の2009年(マイナス2.5%)以来、11年ぶりのマイナス成長を記録しました。
バイデン政権スタッフや国際機関の関係者らと話をしながら、またワクチン接種率を含めた市民らの表情や行動を観察しながら、今回随所で実感したのが、米国経済社会全体として、今年中の経済回復に自信を持ち、理解がある点でした。
前出のIMF幹部が「中国ほどではないが、欧州や日本に比べれば著しい回復が見込めるだろう」と言えば、世界銀行で各国の経済成長率を予測する部署で働く若手のエコノミストは、「我々は、2021年、米国のGDP成長率は5.9%、中国のそれは8.1%だと予測しているが、今後、米国を上方修正し、中国を下方修正することになるかもしれないという議論を同僚たちとしている」と語っていました。景気回復に伴う金利上昇などは、株式市場の動向や投資家心理にも影響を与えずにはいかないでしょう。
これに関連して、印象的だった場面を紹介します。
3月20日、土曜日の午後、ワシントンD.C.で働く中国人がヴァージニア州界隈の一戸建て住宅を見て回る「ツアー」に、私も同行しました。代理人は中国系米国人(女性、40代)で、やり取りはすべて中国語で行われていました。この代理人によれば、遠くない将来にインフレが起こり、金利が上昇することを見込み、金利が低い今のうちに住宅ローンを組んで物件を購入しようというブームが短期的に発生しているとのことです。代理人は言います。
「完全に売り手市場で、私の顧客だけでも、一つの物件に数十人の中国人が応募、入札し、オークションのように値段がつり上げられている状況です。もちろん私にとってはいいことなのですが、平日週末を問わずに、顧客への対応に忙殺されています」
実際に、1軒10分ほどで物件を観察した参加者のほとんどが、その場で即「買います!」と言って応募し、代理人が顧客の情報や入札額をiPhoneに入力していく光景が、目に焼き付いています。
一方で、にわかに懸念され始め、ワシントンの政策コミュニティーの中で熱烈に議論されているのが、コロナ禍における財政出動や金融政策、感染症の抑制、ワクチン接種の普及、景気刺激策などによる個人消費の増加に伴い、インフレが加速するリスクでした。
ローレンス・サマーズ元財務長官も最近になり、バイデン政権による政策と景気の先行きから、インフレリスクを警告しています。
いずれにせよ、発足から2カ月が経過したバイデン政権にとって、コロナ対策と経済回復はコインの表と裏の関係にあること、バイデン大統領がこれらの分野で迅速かつ明確な成果を上げられるかどうかが最重要課題。これが中間選挙の結果と2024年の次期大統領選挙の選局を左右すると考えているようです。
私が現地での取材を基に推察する限り、バイデン大統領は82歳で迎える政権2期目にどう向かい、臨むかというよりも、まずは目の前の政策課題と政権運営に全身全霊で取り組んでいるというのが、ホワイトハウスに漂う空気感です。