私は、2014~2015年、ワシントンD.C.にあるSAIS(米ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院)で客員研究員をしていたのですが、その時の上司であるデービッド・ランプトン教授(専門は中国政治、外交や国際関係)は、昨今の米中関係に対して「習近平(シー・ジンピン)時代になって激化している米中間の戦略的相互不信は深まるばかりだ。米中が、平和的共存、建設的エンゲージメント(関与)の時代に戻れるか考察しているが、楽観視できない」と先行きを不安視していました。

 3月25日、バイデン大統領は就任後初の記者会見を行いました。

 このとき中国に関する質問に対しても答え、自らが習近平という中国の指導者をよく知っていて、同氏のことを「スマートだ」としつつも、「習近平主席はロシアのプーチン大統領と同様、独裁に将来性を見いだし、民主主義が複雑な世界で機能しないと考えている」という認識をあらわにしています。

 前出の米中ハイレベル戦略対話にて、楊潔チは「米国には米国式の民主主義がある。中国には中国式の民主主義がある。米国の民主主義がどのような成果を収めてきたか、どれだけ成熟しているかに関して言えば、米国人だけによってだけではなく、世界市民によって評価されなければならない」と主張しました。

 中国は今後、経済力や軍事力だけでなく、政治体制、発展モデル、イデオロギーといった分野でも米国が世界で誇ってきた影響力や支配力に挑戦していこうとするのは必至です。私自身は、米中戦略的競争時代における最大の不安要素が、米ソが全面的に対立し、東西陣営が分裂した冷戦時代に回帰すること、その過程で、政治が経済を、イデオロギーがマーケットを翻ろうする形で、世界経済構造が米国か中国かという二つの陣営に分断される、ブロック化される事態だと考えています。

 自由、法治、民主主義、市場の原理、公正な競争、ルールに基づいた国際秩序などが脅かされるようになれば、人類社会の形態そのものが劣化する可能性すら否定できません。

 つまり、米中対立という世紀のテーマは、それほどの破壊力を秘めているということです。ウィズコロナ、あるいはポストコロナ時代のグローバルマーケットにとっても、最大かつ長期化するリスクになると推察しています。